2011/12/28

JBL 2360A (8)

2360Aのことをより深く理解するためには、比べられる相手、ライバルが必要。
黄色いホーンの場合、それはALTEC MR94と94A。

MR94との出会いはヨハネスさんのA5システムでした。
そのMR94の音は…本当に素晴らしかった。
生粋のJBLファンとして叩きのめされた。

シネマシステムの歴史から推察すると、MR94は2360Aに届かなかったホーンではなかったのかと思っていました。
しかし、ネットワークの、それも定指向性ホーン用の補正回路を備えていないそれにつながれてのあの音は、想像をはるかにはるかに超えるものだったのです。

ALTEC vs JBL。
誰が何と言おうとこの構図に当てはまるのはMR94と2360Aだけ。
あの日以来。




しかし、日が経つにつれていろいろな疑問が湧いてくる。
MR94の実力がほんとうにあの音の原因だったのか。
ドライバーのちがいなのではなかったのか。

それを確かめる機会はやがてやってきた。
なんとなく入手したMR94A。
これはFRPホーン。
MR94や2360Aよりもはるかに剛性がある新型。
MR94はそれ以前のマルチセルラホーンと同じ造り。







ただしドライバーは黄色いホーンと組合わせている2446Hのスナウトレス版として2451Hをあてがった。
スロート部分には0.05インチの段差があるが、これはそのまま接続した。
しかもMR94Aは縦置き。
不利な条件下でMR94Aを負かしてやろうと思ったからだ。









そしてその音に驚嘆させられた。
またしても打ち負かされたのはこちらのほう。
ホーンの材質も、スロート部分の段差も、そしてドライバーの相違も超えて、MR94Aは「あの音」で鳴り響いた。
ほとんど未調整の状態なのにどうしてこんな音が出せるのであろうか。
その後もその状態で聴き続け、比べ続けたが、結論は変わらない。
現在でもMR94と94Aは2360Aの手強いライバルである。



聴感上の周波数レスポンスはMR94 94Aの方が2360Aよりも整っている。
おそらく大型マルチセルラと代替可能にするために、ネットワークにそのまま接続しても使えることを考えて開発したのかもしれない。
さらに、4インチダイアフラムではなく3インチダイアフラムで300Hzから使用可能とするために、ホーンのプロポーションをあれこれ試したのかもしれない。
2360Aのスロート口からスリット部分までの長さに対してMR94Bはその長さが短く、その代わりにMR94Bのベル部の方が長い。
全体のプロポーションはMR94Bの方がエクスポネンシャルホーンに近いことが理解できるだろうか。
より自然なプロポーションが一役かっているのは間違いない。














2011/12/20

Subscription Concert No.727 at Suntory Hall

東京都交響楽団の第727回定期演奏会に行ってきました。








指揮はエリアフ・インバルさん。
ヴァイオリンはジュリアン・ラクリンさん。
曲目はショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番と交響曲第12番「1917年」。

ラクリンさんのヴァイオリン協奏曲、曲の始めからいきなり引き込まれました。
1704年製ストラディヴァリ「ex Liebig/エクス・リービッグ」の使い手。
深く深く曲のなかに入っていけたような気がします。

インバルさんの交響曲第12番。
これも実に素晴らしかった。
インバルさんのファンになってしまい来年度も都響の年間会員になりました。
同じ席。






交響曲第12番ではライブ録音が行われていました。
サントリーホールでマルチマイク録音を見たのは初めてです。
インバルさんと客席の間の上空にステレオの一対、インバルさん前方上空に一対、さらにその外側、第1第2ヴァイオリン、ビオラ、チェロの各セクションの上空に1本ずつ。
さらに金管、木管、打楽器群のそれぞれの各パートごとに1本又は2本。
小型のステレオマイクと大型のコンデンサーマイクなどが身の丈ほどの位置に配置されていました。
ステージ上空の反射板はやや下方に配置されており、中低域に厚みを感じました。




交響曲第12番はライブ録音が行われていました。
サントリーホールでマルチマイク録音を見たのは初めてです。
インバルさんと客席の間の上空にステレオの一対、インバルさん前方上空に一対、さらにその外側、第1第2ヴァイオリン、ビオラ、チェロの各セクションの上空に1本ずつ。
さらに金管、木管、打楽器群の各パートごとに1本又は2本。
小型のステレオマイクと大型のコンデンサーマイクなどが身の丈ほどの位置に配置されていました。
ステージ上空の反射板はやや下方に配置されており、中低域に厚みを感じました。

マルチマイク録音は各楽器の音を明瞭にピックアップすることができます。
人間の認知機能と似ている。
街の喧騒の中でも話し相手の言葉はよく聞き取れるというのと同じです。

よく聞こえる、という以外に定位の問題もある。
オーディオに置き換えると、その相手の言葉はステレオのセンターに位置しているのでしょうか。
それは相手の方を向いているかどうかによる?

指揮者はどうなのでしょう。
オーケストラのコントロールしたい楽器奏者の方向を向いて指揮をおこなう指揮者。
そうではなく、いつも正面を向いて指揮している聖徳太子型の指揮者もいる。
見ているとさまざまです。

指揮者の向こうには作曲家がいる。
作曲家は自分の曲がどのような音世界を作り出すのか、その音世界はどのようなものになるのかを想像する。
作曲家も作曲の際にはコントロールしたい楽器奏者の方向を向いて聴くことができる音を想像していた、いやそうではなく?

音量の大きな現代楽器により、ステージでは音が炸裂するようになり、それは一つのドラマチックな音世界を作り出した。
歌劇場のボックス席で談笑しながら聴く時代は終わった。

作曲家の意図した音世界をそのまま聴かせてあげよう。
それを近くで聴いてみようよ。
もっと近くにおいでよ。
そう考えてワインヤード型のコンサートホールを採用した。
音が悪いそのホールと格闘を続け、不評のマルチマイク録音に挑戦し続けた。
ここら辺が傍観者との違い、かもね。






2011/12/06

JBL 2360A (7)

"JBL Professional White Paper New 4675C-HF with 2360B"に掲載されていた2360AとBの周波数レスポンスグラフです。
約420Hzから5.5kHzまでが110dBを超えて盛り上がっており、低域側のレスポンスは-6dB/octぐらいで低下しています。
これでは帯域別のEQ抜きで使用するのは難しいです。
う~む。







一方、Beamwidthのグラフはかなり優秀です。
垂直方向(Vertical)が800Hz以下では広がってしまいますが、それでも250Hz(2360Bでは200Hz)まで約100度を維持しています。






もし2360Aと同等の大きさのエクスポネンシャルホーンであれば周波数レスポンスグラフはおそらく200Hz程度までフラットなのではないでしょうか。
カットオフ周波数は変わらないものの定指向性のために軸上のレスポンスが犠牲になっているのです。
途中にスリット(ギャップ)などが設けられているため、エクスポネンシャルカーブからは程遠い変則的な広がり形状となっているためです。

JBLは、現代的なホーンの設計が様々な要素を勘案して行われていることをTechnical Note "Progressive Transition Waveguides"の冒頭で述べています。
その様々な要素とは、周波数特性(軸上及び軸外)、水平及び垂直のBeamwidth、directivitiy index、インピーダンス特性、高調波歪、そして、低域のカットオフ周波数です。
これら要素のうちいくつかの要素を重視し、その他のいくつかの要素を妥協することにより、ホーンの性格が決定されます。
そして、こうした要素のすべてがホーン臭さの強弱と関連しているのでしょう。

Horn design involves balancing compromise.
Key performance parameters that can be controlled by the designer include: frequency response (both on and off-axis), horizontal and vertical beamwidth, directivity index, electrical impedance, harmonic distortion, and low frequency cut-off.





















Beamwidthとは-6dB落ちの範囲のカバー角度を言います。
2360の米国特許に掲載されている下のグラフには軸上0°のレスポンスから-6dB落ちの箇所にマーキングがされています。
このマーキングは水平方向(Horizontal)ではおよそ310°と80°であるため、800HzのBeamwidthは約100度ということになります。
同様に垂直方向(Vertical)ではおよそ337°と23°であるため、約45度ということになります。











-6dB落ちの範囲が何故重要なのかはEAWの資料に以下のような解説があります。

"複数のスピーカーでアレイを構成している場合、システム全体のリスニングエリア内で継ぎ目のないカバーエリアを実現することが要求されます。
どうにかしてロブや相互干渉を回避しながら個々のスピーカー出力を組み合わせなければなりません。
これが実現できるのは、カバー角内で平坦な特性を持ちカバー角からはずれると極端に出力が低下するという、想像上のスピーカーだけでしょう。
このスピーカーなら互いに正しい角度で配置するだけで、継ぎ目のない指向性を作り出すことができます。"

こうした特性はまた、指向角度のエッジで公称レベルからちょうど6dB低下するような出力を持つスピーカーでも達成することができます。
この状態であれば隣り合った2本のスピーカーが合算され、2本の間で継ぎ目のない特性を提供するでしょう。
複数のスピーカーで出力を構成する場合、特性がロールオフする角度はあらゆるカバー角で完全に合算されていなければなりません。"