2004/05/20

幸せの黄色いホーン 80話 ARISAさんのシステム



尾張・春の陣、二日目の会場はARISAさんの家。4550のバーチカルスタックシステム。初日のごさ丸さんの音に打ちのめされた上に、この巨大スピーカーシステムですから、これはもう生きて帰れないのではないかと不安が募ります。ごさ丸さんに連れて行ってもらったARISAさんの家は大きい上にとても素敵です。特に広々としたお庭が素晴らしい。立派な玄関の前の大きな甕の中には蓮と金魚さん。しかし、趣味の良さが感じられるこの家の中にとてつもない怪物がうずくまっているとは、おそらくお釈迦様でも分かるまい、と思います。

吹き抜けのある大きな空間の部屋に通されると、出ましたぁ!という感じの漆黒の巨人が聳え立っています。4台の4550と中央の4520は、まるで新品のように綺麗な外装。もちろんARISAさんが仕上げたもの。そして、このハンサムなシステム、想像していたより遥かに巨大。これはダメになっちゃうかも、ヘナヘナヘナ…です。腰が抜けるどころか床が抜けてしまうのではないかと思ったのですが、この床の踏み応えが猛烈に硬い。自動車が入ってきても大丈夫とのことでした。右側スピーカーの奥にはアンプ室があり、ここに巨大な放送局用のアナログプレーヤーや総重量400kgを超える業務用アンプがずらり。

煮るなり焼くなり好きにして頂戴!という気持ちのまま、奥様お手製のおいしいオレンジタルトを頂きました。2220の会恒例のお茶会だそうです。ARISAさんに、2220にしましょうよ、とにこやかに話しかけられても返す言葉がありません。どうすればいいの?




ARISAさんの世界は独特です。有名な業務用機材、特に著名なミキサーのフェーダーやラインアンプ部を入手してプリアンプの代わりに使用するというもの。フェーダーと言ってもスライドボリューム単体ではなくラインアンプ基板や入出力トランスが付属しているタイプだそうです。これらは単体の基板ですから電源部が必要となります。この電源部は軍用無線のマルチ電源を改造したもの。軍用ですから使用されている抵抗やコンデンサ等の素子のグレードが高いそうです。ともかく、家庭用オーディオの知識などは全く通用しないディープな世界なのです。

さらに、JBLの業務用モノラルアンプによって構築されているマルチアンプによる駆動系の他、ヤマハの業務用アンプとネットワークを組み合わせた駆動系があり、さらに使用されていない業務用の巨大アンプが積み上げられています。その他、何に使うのか分からないような機材もあり、それら機材が目の前にありながら全容の解明は不可能という状況。巨大な箱に収められているFOSTEXの80cmウーファー、FW800も使われずに放置されています。なんということでしょう…




さて、この4550バーチカルスタックシステムですが、骨太の音に押し捲られるのか、それとも音がすっ飛んでくるのかな、というような予想を全く裏切る「王道の音」なのです。荒れたところなど微塵も無い、堂々としたバランス。どっしりとした量感があるのに引き締まっている。サブウーファーとして使用している中央の4520さえもクセなど感じられません。上段の4550は初期型の密閉箱であり130Aと2220Aの組み合わせ、下段の4550はバスレフ箱で2220Aのダブルウーファーです。ごさ丸さんの解説によると130Aと2220Aは音色に微妙な差があるので、これを組み合わせることによって得られる音にその狙いがあるとのことでした。

持参したソロのエレクトリックベースのCDをかけて頂いた時、低音がフゥッと手に触れたような錯覚に陥りギョッとしました。このときも大音量ではなかったのですが、このCDでこの低音の質感、初めてでした。オーディオ的に言えば低音の分解能に優れているというような話になるのだと思いますが、そんな無機的な表現では到底語れません。あまりの薄気味悪さに思わず手を引っ込めてしまうような、そんな実体感なのです。これは4550や2220Aの性能の高さだけではなく、駆動系を含めたシステム全体のバランスが整っているからだと思うのですが、それにしてもどうしてこんな音が・・・

ヨハネスさんが持ち込まれた機材、高価なCDプレーヤーやDAコンバーター、フェーダーやミキサー、それから軍用電源…、ともかく次から次へとつなぎ換え、聴き比べが行われていきます。そして、それらの印象の差について、ごさ丸さん、ARISAさん、ヨハネスさんがどんどんコメントしてゆく。こちらは、それどころではなくARISAさんの音を覚えこもうと必死です。この音のバランスを持ち帰りたい・・・ 確かに機材によってはアナログレコードの音の傾向とCDの音の傾向の違いのような変り方をしているような。でも、その音の変化にコメントするような次元には到底及ばない。ヨハネスさんやARISAさんが気を使ってくれているのが分かるのですが、経験不足故に落伍…

こうして2日連続の衝撃にクラクラしたまま尾張・春の陣は終了。そして、実に多くのことを学ばせてもらいました。音のエネルギー感、質感あるいは実体感といったものの大切さ、肝に銘じます。それから、ごさ丸さんはシステムの機材をなかなか変更しようとしません。一方、ARISAさんは色々な機材を試している。しかし、両者共に共通するのは探究心。一つの機材の能力をとことん引き出そうとするのか、それとも新しい活路を切り開くのか。この情熱に完璧にやられてしまいました。宿泊させて頂いたごさ丸さん、ARISAさん、ヨハネスさん、貴重な体験をさせて頂き、本当にありがとうございました。一日も早くカタログ男を脱却して、薀蓄のみオーディオとオサラバせねば。
(ARISAさん撮影の画像を使わせていただきました。ありがとうございました。)

システムの概要

スピーカーシステム
           JBL 075+ホーンレスの375(その他175)
           JBL 2355+375×2
           JBL 4550+2220A+130A(上段)
               4550+2220A×2
           JBL 4520+2205B×2(サブウーファー)

CDプレーヤー  PHILIPS LHH500
プリアンプ     AMPEX/Quad8
チャンネルデバイダー JBL 5232
           JBL 5234
           JBL 5235
               500Hz、7kHzのクロス、いずれも遮断特性は-12dB/oct
               (サブウーファーのクロスは聞き忘れてしまいました。)
パワーアンプ   JBL 6006×2(HI)
           JBL 6010×2(MID)
           JBL 6010×4(LOW、上下の4550に対して1台ずつ)
           JBL 6021(SUB)
電源        200V電源




2004/05/19

幸せの黄色いホーン 79話 ごさ丸さんのシステム



2007年5月19日と20日、2日間に渡って尾張・春の陣が開催されました。参加者は、ごさ丸さん、ARISAさん、ヨハネスさん、そして部屋の隅っこで吸音材として活躍する?おとがでるだけ。よく晴れた初日の会場は、ごさ丸さんの家。5月の風が気持ちいい、お昼過ぎの静かな住宅地。迎え入れてくれたごさ丸さんは、とても穏やかな方です。かわいらしいお子様と素敵な奥様、親切なお母様。人懐っこくて賢い座敷犬。広々とした2階の和室に通されると、これは眺めの良い部屋。この部屋で昼寝ができれば最高だなぁと思いました。

ごさ丸さんの明仙堂のホームページは、密閉箱やバスレフ箱についての丁寧な解説が掲載されており、自作箱の自動計算ソフトをいつも使わせていただいています。また、音視界という楽しいエッセイのコーナーもあり、特に「シャウト!マイウェイ」と「バードランド」は何度読んでも素晴らしい。そして、この音視界からは、菅原正二さんのジャズ喫茶「ベイシー」の音がごさ丸さんに大きな影響を与えていることが伺えます。




気持ちの良い風が通るこの部屋に鎮座しているのがバーチカルクワッドの超大型自作スピーカーシステム。実効容積500Lの密閉箱。合板ではなく無垢板、徹底的な補強、そして長さ10cmのステンレス製ヘキサゴンボルトを数百本使用して組み上げられています。箱というよりは、まるで木の塊。中央のホーンは、ボーリング場の床に使用されていた堅い板を削り出して自作されたもの。「東急ハンズでシナ合板を切断してもらいましたぁ」というどこかのお調子者とは次元が違います。

午後のゆったりとした時間。自作派同士のせいか、それともごさ丸さんの語り口のせいか、リラックス状態。音を聞かせていただく前にバーチカルクワッドの製作についてお話を伺いました。また、1インチスロート用の自作ホーンなども見せていただきました。そして、この段階ではバーチカルクワッドというよりも、4発ウーファーの音はどんな感じなのだろうかとか、このシステムの雰囲気は和室に似合うなぁとか、そんなことをぼんやり考えていました。




いよいよ音が…って、うわっ、何だ、これはっ! バーチカルクワッドは音なんか出してない。そこから吹っ飛んでくるのは音ではなく演奏者の気合そのもの。こんなことって!

頭の髪の毛が逆立っていきます。今まで髪の毛が逆立つような経験は数えるほどしかないのに。音量は決して大きくないのですがとにかく強烈。全ての雑念を吹き飛ばし、ついでに聴き手さえも置き去りにしてしまうような加速感。しかもこれはF1マシンの全開加速。音楽鑑賞ではなく、ほとんど恐怖体験の世界です。ギラッとしたサックスの閃光が全身を貫き、むき出しのドラムに引っ叩かれる!

呆然。この音、魂が感じられる、生きてる。これはもう巨大なスピーカーシステムというよりは単体の巨大なスピーカーユニット。それほど音が一塊にまとまっているのです。大型システムにありがちな分散したような音ではなく、ともかく徹頭徹尾、凝縮されている。全く無駄な音がない。髪の毛を逆立てたまま理解できたのは、バーチカルクワッドという形式。この中央にあるホーンの尋常ではないエネルギーを中心に、38cmウーファーの名器、2220Aの4発がぴったり追随し、音の塊をぶつけてきます。

このホーンはダブルスロートになっており、2本の2440ドライバーが接続されています。音視界は、このダブルドライバー化の話で中断しています。ごさ丸さんにお話を伺ってみると、もともとこのシステムはバスレフのバーチカルツインだったのですが、ダブルドライバー化したとたん、システム全体のバランスが崩れてしまい、迷いに迷った末、ウーファー部を密閉の4発に変更、このシステムが誕生したそうです。なお、ダブルドライバーだからといって音が濁るなんてことも全く感じられません。このホーンの音はとても澄んでいて美しいのです。

ベイシーの音と比較するとどうなんですか?とごさ丸さんに尋ねてみると、違った所に来ちゃったみたい、というお話。長年に渡る試行錯誤の末、自分の音を出せたというのは本当にうらやましいことです。それにしても、この音、絶対に忘れることができないと思います。
(ごさ丸さん撮影の画像を使わせて頂きました。ありがとうございました。)


システムの概要

スピーカーシステム
           JBL 2402×2(2305+175×2)
           JBL 自作ホーン+2440×2
           JBL 2220A×4
           500L 自作密閉箱

CDプレーヤー  LUX D500
プレーヤー    LINN LP12+SME 3009S2+SURE V15TypeⅢ
プリアンプ     JBL SG520
チャンネルデバイダー JBL 5235×2
               500Hz、8kHzのクロス、いずれも遮断特性は-12dB/oct
パワーアンプ   JBL SA600(HI)
           JBL SE408S(MID)
           JBL SE408S(LOW)
電源        200V電源