2004/06/01

幸せの黄色いホーン 81話 ミッドベースの形式を考えよう



黄色いホーンシステムは約250Hzでクロスした大型ホーンと46cmウーファーの組合せです。理屈の上ではかなり苦しい構成ですが、遮断特性のQ値を調整し、ロー側とハイ側のクロス周波数をバラバラに設定するなどの悪戦苦闘を繰り返したところ、これは案外マトモな音に(そう思っているのはおめでたい本人だけ)。しかし、2392+2490Hでも同様の方法で誤魔化してしまうのではちょっと退屈。という訳で今回はミッドベースの導入を考えることにしました。

ミッドベースの形式としては、ダイレクトラジエター型やホーン型、あるいは中間的なV字型バッフルのようなタイプが考えられますよね。そこで色々と調べてみました。最初は、ダイレクトラジエター型。ダイレクトラジエター型と言っても、使用するユニットの数によって中低域の質感が相当違ってくるようです。2392(あるいは2392S)+2490Hを使用している5671、5672、5674(カタログ散策03話をご参照下さい)のダイレクティビティ ファクター(directivity factor/指向係数)のグラフを比較してみると、シングルウーファー、ダブルウーファー、4発ウーファーの中低域の特性に差があることが分かります。



5671(シングルウーファー)


5672(ダブルウーファー)



5674(4発ウーファー)


このダイレクティビティ ファクターとは、スピーカーの主軸方向の音圧とスピーカーを中心とする球体面上で音圧の平均値との比だそうです。イメージが湧かないので、スピーカーからあらゆる方向に放射される音の内、スピーカーの軸上に吹っ飛んでくる音の割合を示す特性と理解しています。ちなみにダイレクティビティ インデックス(directivity index/指向指数)は、ダイレクティビティ ファクターの常用対数の10倍を示したものだそうです。ダイレクティビティ ファクターの測定方法は、無響音室内でスピーカーを適当な角度で上下左右斜めに回転させて測定するのではなかろうかと考えています。

ダイレクティビティ ファクターの数値、具体的には、無指向性スピーカーを反射のない空間に吊り下げた場合(自由空間)、ダイレクティビティ ファクターの値は「1」になるそうです。この無指向性スピーカーを床の上に置いた場合には「2」、さらに背面壁を加え「床+背面壁」にすると「4」、さらに部屋の隅のように左右何れかの側壁を加え「床+背面壁+側壁」にすると「8」。しかし、それ以上はどう考えればよいのか残念ながら分かりません。そして低域になるほど指向性はブロードになりますから、それに応じてダイレクティビティ ファクターの数値は小さくなります。

ちなみに、サブウーファー等の周波数レスポンスグラフで表示されている4π空間、2π空間などの表示もダイレクティビティ ファクターと似たような捉え方。4π空間とは自由空間、2π空間は床の上、π空間は「床+背面壁」、π/2空間は「床+背面壁+側壁」。下のグラフでは破線が4π空間での特性を示し、実線が2π空間での特性を示しています。


ASB6128V(55話をご参照ください)


話を戻し5671、5672、5674の3機種を比べてみると、100Hz以下のダイレクティビティ ファクターには大きな差がありません。しかし、100Hz~250Hzの中低域のダイレクティビティ ファクターでは、5671や5672に見られる落ち込みが5674にはありません。要するに5674では、4発ウーファー部と2392+2490Hのホーン部とのそれぞれのダイレクティビティ ファクターがなだらかに連続している訳なのです。ダイレクトラジエター型のウーファー部がホーン型のミッド部とうまく適合している好例でしょう。ごさ丸さん作バーチカルクワドの中低域の充実感はこれが原因だと思っています。

ダイレクトラジエター型ではなく巨大ホーンならどうなるのでしょう。例えば、エレクトロボイスのMH6040AC。開口部のサイズが縦98.1cm、横147.9cm。そして奥行きは187.8cm。100Hz以上で使用可能な定指向性(60°×40°)のスタジアム用同軸ホーンです。この同軸ホーンの中低域用ホーンを300Hz以下で使うなら、ダイレクティビティ ファクターの値は2392+2490Hにも適合しそうです。しかし、2392に合わせるために90°×50°の定指向性を持たせ、MH6040ACと同程度のダイレクティビティ ファクターの値を確保するとなると、ホーン全体の大きさはさらに巨大なものになるでしょう。



MH6040AC



MH6040ACのダイレクティビティ ファクター

ついでに中高域用のホーンにおけるホーンサイズとダイレクティビティ ファクターとの関係も。小さいほうから順に2381(90°×50°)、2352(90°×50°)、2360A(90°×40°)、2392(90°×50°)のグラフを並べてみました。なお、2381というのは2380Aのスロート部を1.5インチ径に変更したものです。


2381




2352

 


2360A



2392

このように中低域側において正面に吹っ飛んでくる音圧の割合はホーンが大きくなるほど大きくなります。これは聴感上どうなのかというと、ホーンが大きくなるほど大人しい印象になります。何故って、中低域と中高域のダイレクティビティ ファクターが略同値になるため、耳につきやすい中高域の吹っ飛び具合が相対的に控えめに感じられるからでしょう。

さらに、90°×50°、60°×40°、40°×30°を比べてみました。60°×40°や40°×30°のホーンでは、2kHz以上での盛り上がりが顕著であり、高域になるほど正面に吹っ飛んでくる音圧の割合が大きくなることが分かります。演奏者との近接感や鮮やかな感じを出しやすい特性だと思います。


 2352(90°×50°)


2353(60°×40°)



2354(40°×30°)

こんな具合にダイレクティビティ ファクターという特性からミッドベースの箱の形式を考えてみるものの、実際には、床、天井、背面壁、両側壁のある部屋の中で使うのですから、この数値だけでは何も語れないかもしれません。それはともかく、巨大なスタジアムホーンは今のところ設置スペースがありません。また、5674のようなダイレクトラジエタータイプ4発では左右計8発のユニットが必要となり、これは資力検査が厳しい結果に。こうなるとダイレクティビティ ファクターのことを勉強しても何にもなりませんね。ガックリ。






0 件のコメント: