A-S301はシングルプッシュプルである。
シングルプッシュプルよりも3パラレルプッシュプルとか4パラレルプッシュプルのようにパワートランジスタがずらっと並んでいるアンプの方が力強い音が聴ける。
しかし、これはネットワークを使用した普通のスピーカーシステムを駆動した場合の印象であり、マルチアンプになると話が変わってくる。
業務用の大口径ウーファーや大型ホーンを用いた巨大なマルチアンプシステムの場合、そんなに凄いアンプを持ち出さなくても、力強いなどというレベルをはるかに超えた凄まじい音を聴くことができる。
マルチアンプは各アンプの負担が小さい上に、変換効率の高い業務用ユニットならこれはなおさらだ。
では、そんなマルチアンプシステムに凄いアンプを組み入れるとどんな音になるのか。
この音の感想は人によると思う。
さらに力強くなったと感じるか、それとも、やりすぎであってマルチアンプ特有のすっきり感が損なわれてしまっていると感じるかだ。
後者、である。
なお、こういう感想を持つ方は他にもいる。
こうしたことが生じる原因ははっきりとは分からない。
ただ、マルチアンプシステムではアンプやスピーカーユニットの素の音がもろに出るため、特性の揃ったパワートランジスタを厳選しても解消することができない"にごり"の一種を感知できてしまうのかもしれない。
温度環境や経年変化、複雑な動特性において一糸乱れずというのを期待するのは、どうなのか。
ともかくこうしたことは解像度の高い巨大システムで体験してみると一発で理解できる。
菅原正二さんはJBL SE400Sを使い続けておられる。
これもシングルプッシュプルというか、そのご先祖様だ。
まあA-S301からSE400Sを連想するのはかなりのオーディオ歴、いや、かなりのオーディオ的想像力、いやいや、かなりのオーディオ的ユーモア力が必要になろう。
すっきり系の音がお好みだった早瀬文雄氏がA-S301を愛用されていたのも心強い。
オーディオ高原駅から先はベテランクライマーの世界。
各々独自のアプローチで異なるピークを目指すことになる。