2012/01/26

JBL D2430K

D2430Kは2012NAMMショーで発表されたVTXシリーズに搭載されているJBLの最新型コンプレッションドライバーです。
2つのドライバーがスタックされている全く新しい構造を持っています。
詳しくはVTXのパンフレットD2430Kのプレス用パンフレットを。







下の画像、2つの空色の部分がネオジム磁石。
それぞれの磁石について独立した磁気回路が構成されています。

中央部には緑色の円錐状イコライザ。
そのイコライザの基部周囲には、緑色の部材と薄いオレンジ色の部材との間に隙間が形成されています。
この隙間は下の画像ではイコライザの右側基部のほうがはっきり分かります。

隙間の上下には断面がV字型に盛り上がった部分があります。
この盛り上がった部分がフェーズプラグ。
このフェーズプラグに上下のリング状ダイアフラムがそれぞれかぶさるように配置されています。
それぞれのダイアフラムの磁石側にはボイスコイルと磁気ギャップがあります。









下の画像、紫色が上部ダイアフラム、薄いオレンジ色部材が上部フェーズプラグ。
緑色部材は中央円錐状イコライザと下部フェーズプラグ、黄色が下部ダイアフラム。
オレンジ色の上部フェーズプラグの底面側には放射状のスリットが見えます。
このスリットは緑色部材の上面側にも形成されているはずです。

この放射状スリットは部材を貫通しており、フェーズプラグの小穴と連通しています。
緑色部材ではV字型断面を持つ凸部に「ハ」の字型の小穴があります。
おそらくオレンジ色の上部フェーズプラグの上面にもあるはずです。
そして、環状ダイアフラムにより圧縮された空気はフェーズプラグの小穴から放射状スリットを通り、上記の隙間に放出されます。
そしてこの隙間では上下の環状ダイアフラムからの音波が合成される。

ボイスコイルのリード部は中央部に向かって設けられており、上下ボイスコイルの端子は独立して設けられていることが分かります。
インピーダンスはそれぞれ16オームであり、並列に接続すると8Ωになります。







環状ダイアフラムとフェーズプラグの構造はBMS社のドライバーと類似する構造です。
また、D2430Kのダイアフラムはポリマー(合成樹脂)であり、この点でもBMS社のドライバーと共通します。
しかし、2つのダイアフラムが対向しているのが新しい。

ボイスコイルと磁気回路は2つあるため放熱に優れ、許容入力は2倍の200Wあります。

環状ダイアフラムは従来のドーム状のダイアフラムに比べると2つの利点があります。
ドーム状ダイアフラムは往復動の際、ダイアフラムの凸状側に変位すると、ダイアフラム中央部がへこむ。
その逆側に変位する際には、ダイアフラム中央部は膨らむ。
ソフトドームの方がハードドームよりも鋭い音になるのは、このダイアフラムの望ましくない変形量が大きいため。
環状ダイアフラムはこのダイアフラム中央部を持たないので、こうした問題がありません。

もうひとつは環状ダイアフラムの質量が小さいこと。
このため高域のレスポンスに優れる。

しかし上記のような利点の反面、環状ダイアフラムはその振動面積が小さく、能率と低域側のレスポンスが悪い。
D2430Kは対向する2つの環状ダイアフラムにより振動板面積を稼ぎ、そんな問題点を解決したというわけです。




D2430Kという型番、面白い。
24XXはドライバーの番号だけど、Double DriverのD2と組合わせたのかもね。
そして30だから、おそらくボイスコイル径は3インチだと思います。
ええっと、スロート径も今のところ不明。
これはおそらく1.5インチスロート。
2430H、2431H、2432H、2435Hの代替機種だと思うからです。

末尾のKも目新しい。
Fは2Ω、Gは4Ω、Hは8Ω、Jは16Ω。
だからKは16Ωのダブルボイスコイルという意味なのでは?




VTXのパンフレットには下記のように記載されています。
"At the heart of VTX is the D2 Dual Driver, a revolutionary device developed by JBL that dramatically improves the sound and performance of high frequencies."
また、このドライバーの構造についてはAESで発表していることも記載されています。
"Audio Engineering Society Convention Paper “Dual Diaphragm Compression Drivers,” Author Alex Voishvillo, Preprint 8502, presented at the 131st Convention, New York, Oct 2011"
D2430Kのラベルには"Patent Pending"(特許出願中)の表記もあり、JBL社のオリジナル製品であることは確実です。
"D2 Dual Driver"などの表記を見ていると、JBL社はこのドライバーを相当気に入っているように思います。
かなり音がいいのではないか。

なお、同ラベルには"Made in Mexico"という表示があったので調べてみた。
同社はロス郊外のノースリッジにある。
だからメキシコに工場があるとしたらティファナだろうなと。
JBLとTijuanaで検索するとこんなのを見つけた。

ノースリッジに工場があってそこでは主力製品を製造し、それ以外の製品をメキシコ工場で生産する、というのではなさそうだ。
米国ではもはや生産は行わず、ノースリッジの製造ラインをメキシコに移転し、すべてのJBL製品をメキシコで生産するということらしい。
ティファナには日米の企業の工場が多数あり、隣接する米国都市であるサンディエゴに研究施設を置くというパターンが多い。
ノースリッジからティファナだと3時間以上かかるような気がするが、それでも多国籍化を図るならティファナに製造拠点を移すのは最良の選択ではなかろうか。

BMS社のOEMを受けるままではどうかと思っていましたが、これでめでたく王者復活。
もともと環状ダイアフラムはランシング氏謹製075の技術。
違いは中央部のイコライザの形状。
D2430Kはエクスポネンシャルではなくコニカルなんだよね。















Commented by johannes30w at 2012-01-28 17:48 x
久しぶりにワクワクしますね!
でも、見た目がしょぼいのは時代なのかな。。。

Commented by kiirojbl at 2012-01-28 20:38 x
これの4インチ版(D2440K)とか5インチ版(D2450K)とかが出てきてミッドレンジがコーン型からコンプレッション型に戻らないかなと期待しているのです。
JBLなんだからもう少しお化粧してほしいです。
黒の縮み塗装とか無理かなぁ。
ボイスコイル焼損の場合、分解しないといけないから外観はこんなかんじにならざるを得ないのでしょうか。
う~む。


2012/01/24

Subscription Concert No.729 at Suntory Hall

東京都交響楽団の第729回定期演奏会に行ってきました。








今回の演奏会は「日本管弦楽の名曲とその源流」という企画だそうです。
曲目は野平一郎作曲、オーケストラのための「トリプティーク」、野平一郎作曲、チェロとオーケストラのための「響きの連鎖」、ブーレーズ作曲、エクラ/ミュルテプルの3曲。

オーケストラのための「トリプティーク」とチェロとオーケストラのための「響きの連鎖」の指揮者は作曲した野平さん自身でした。
エクラ/ミュルテプルの指揮者は杉山洋一さん。

いつもより遅れてホールに入るとステージで野平さんと聞き手の方との対談が終わる寸前。
う~む、アークヒルズのさしてううまくもない蕎麦など食べている場合ではなかったと後悔。
月刊都饗というパンフレットにも野平さんがご自身の曲の解説をされています。
作曲者自身のお話や解説というのは貴重ですよね。



オーケストラのための「トリプティーク」はかなり強烈でした。
うむむむ、と聴き入ってしまいました。
いろいろなイメージがどんどん湧いてきます。

高揚した気持ちで今度はチェロとオーケストラのための「響きの連鎖」。
チェロ奏者は堤剛さん。
大太鼓が4つ、分散して配置されています。
同時に4つが鳴るのではなく、1つづつ交互に鳴る感じです。
発音位置を変えることにより音の遠近感を出そうという試み。

この曲は堤剛さんの鬼気迫る好演もあり、すばらしかったです。
日本の森の中に潜んでいる怖れの対象を想起させるような深さを感じました。



エクラ/ミュルテプルは、日本初演。
もとになったエクラが15楽器、エクラ/ミュルテプルは10楽器増えて25楽器のための曲であるため、前の2曲に比べると楽器の数が少ないです。
でも、ツインバロンやチューブラーベルなどがあり、どんな風なのかなぁと興味深く聴きました。

杉山洋一さんの指揮は各楽器の余韻までもが、すべて指揮のなかに見て取れるようです。
指や手のひらの表情がオーケストラの音とそのままつながっている感じです。

今回の演奏会は、野平さんの曲とブーレーズさんの曲は同じ範疇の曲ということになっていると思うのですが、しかしその内包しているものは全然違うように思いました。
野平さんの曲は雅楽に通じるものを感じ、エクラ/ミュルテプルはやはりヨーロッパ音楽の雰囲気があります。
作曲家の個性の違いよりも文化的な背景の違いを感じました。