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2004/07/16

幸せの黄色いホーン 116話 GUSTAV MAHLER SYMPHONY No. 6

 

マーラーの交響曲第6番、wikiによると
"マーラーがシュペヒトに宛てた手紙には、「僕の第6は、聴く者に謎を突きつけるだろう。この謎解きには、僕の第1から第5までを受け入れ、それを完全に消化した世代だけが挑戦できるのだ」と書いている。"のだそうです。
ということで、これはマーラー自身の謎掛けなのでしょうか?
要するに6番には何か意図があると。
そこでネットで検索をかけてみるとどうやら宗教のことを扱っているという意見が多いように思います。

宗教とクラシック音楽は切っても切れない間柄ですが、残念ながら宗教のことはよく分かりません。
分からないというより、宗教的な体験をする機会がなく無縁なのでした。
唯一、結婚式のときに、生涯あなたは妻を愛しますか等々、神父さんから質問されたことがそうした体験になるかと思います。
そのときは、神さまとそんな大層な約束をしても大丈夫なのでしょうか?と神父さんに聞き返したくなりました。
もっとも信仰心のない者が突然神さまに誓いを立てたとしても相手にされていないようにも思いましたが。
アメリカにいたとき、アメリカでは離婚が多いようなのですが、結婚式のときの神さまとの約束はどうなるのでしょうか?ということを、たまに教会に行くよという人に尋ねたことがあります。
答えは、神はそれもお許しになられます、ということでした。
なるほど。

というわけで6番については、本当のところは何も分からないとは思うのですが、せっかくのマーラーさんの謎掛けなので分からないなりに考えてみました。

グスタフ・マーラーさんは1860年7月7日生まれ、1911年5月18日にお亡くなりになります。
主にオーストリアのウィーンで活躍しました。
1860年生まれですから100歳ほど年下になり、なんとなく親近感が湧きます。
100年って、区切りがいいではないですか。

6番は1904年に書き上げたそうです。
このときマーラーは44歳です。
1904年のウィーンはどんな感じだったのでしょう。
第一次世界大戦が1914年に始まったので、その10年前ということです。
wikiによると、当時、オーストリア=ハンガリー帝国では、複雑な民族問題があり、9言語を話す16の主要な民族グループ、および5つの主な宗教が混在していたそうです。
そしてサラエボ事件(1914年6月28日)が起こってしまった。

5つの宗教が混在していたことから、6番の4楽章のハンマーの打撃回数が当初5回で計画されていたことを連想します。
この5つの宗教がどの宗教なのかはwikiに表記されていないので特定できません。
一般的に宗教と言えばキリスト教、イスラム教、仏教の3つだと思います。
5大宗教ならば、さらにヒンドゥー教とユダヤ教を加えることになるのでしょう。

マーラーさんの両親はユダヤ人でした。
しかし、マーラーさんは才覚のある人なので神さまに頼らなくても大丈夫な人だったのではないかと。
とは言え、交響曲第1番の巨人は、巨漢ゴリアテだったのだろうとは思っています。
古代ユダ王国の建国の父、羊飼いの若者であるダビデが主人公というわけです。
ジャン・パウルの小説「巨人」に由来するそうですが、そうとでも言わないとまずかったのでしょう。
当時、1番は不評だったそうですが、音楽的な斬新さが原因だったというより、聴衆がユダヤ教を連想したからではなかったのかと。
マーラー自身、巨人の標題は"誤解"を生む可能性があると認めています。
そして、音楽的成功を優先させるためだったのか、2番のタイトルをキリストの"復活"にしたのもそういう影響があるのだと思っています。

ちなみに1897年、37歳のときにユダヤ教からローマカトリックに改宗しています。
この改宗はウィーン宮廷歌劇場の芸術監督になるためだったそうです。
対立するグループの一方から他方へ移るわけですから、相当困難な状況に置かれたことでしょう。
こうした場合、両グループに対する怨恨は深いものになります。

マーラーさんが、自身の信仰の対象としてキリスト教とユダヤ教をどのようにとらえていたのかは誰にも分かりません。
しかし、作曲という創作の場においては、かなり客観的に捉えていたように思えます。
創作のやり方としては、従来の考え方をベースにした創作と、従来の考え方を採用せず、他の考え方をベースにする創作の2種類があります。
マーラーの場合、キリスト教ベースの作曲を、たとえばユダヤ教ベースにするのはどうだろうかと、そんな風に考えたのではないでしょうか。
大地の歌などは、キリスト教文化でなくても他の文化でも西洋音楽の伝統に則った音楽を構築できるとする実証実験だったように思えます。
このやり方が、どんどん進んで現代音楽が生まれてゆくことになったように思えます。

6番の話に戻しましょう。
6番というとベートーヴェンの田園が有名です。
マーラーは田園が好きだったのではないでしょうか。
巨人の第4楽章と田園の第4楽章、続けて聴くと面白いです。
マーラーはこの荒れ狂うパワフルな表現を最初の大曲である巨人でやってみたかったのではなかろうか。
そして田園は標題音楽の代表格。
デリケートな宗教のことを扱うので標題を付す訳にはいかず、"謎解き"というか標題を聴衆に解読するよう求めたのではないでしょうか。
という訳でマーラーの6番は"無標題による標題音楽"に挑戦したのではないかと。


聴いてみた6番は以下の通り。
Herbert von Karajan - Berlin Philharmonic 1978
Klaus Tennstedt - London Philharmonic Orchestra 1983
Leonard Bernstein - New York Philharmonic 1967
Leonard Bernstein - Vienna Philharmonic 1988
Pierre Boulez - Vienna Philharmonic 1994
Giuseppe Sinopoli - Philharmonia Orchestra 1986
Riccardo Chailly - Amsterdam Concertgebouw Orchestra 1989
Claudio Abbado - Berlin Philharmonic 2004
Lorin Maazel - Vienna Philharmonic 1983
Saimon Rattle - City of Birmingham Orchestra 1989
Esa-Pekka Salonen - Philharmonia Orchestra 2009
Rafael Kubelik - Bavarian Radio Symphony
Georg Solti - Chicago Symphony Orchestra
Eliahu Inbal - Radio-Sinfonie-Orchester Frankfurt 1986
Zubin Mehta - Israel Philharmonic Orchestra 1995
Sir Jhon Barbirolli - New Philharmonia Orchestra 1967


ええっと、2楽章と3楽章の演奏の順番についてはアンダンテ-スケルツォの順が良いと思います。
だって、1楽章のあとがスケルツォというのはうっとうしいです。
各楽章のタイトルというか印象は以下の通り。

第1楽章は「宗教が持つ不寛容と排撃性。そうした宗教と対照的な人々の慈愛や家族愛。」を描いていると。
出だしの不寛容な雰囲気はマーラーらしからぬ近接戦闘状態であり、なんというか悪役の提示のような感じを受けます。
第2楽章は「原始というか原初の宗教の姿。羊の群れを美しい泉へ誘導する牛飼い。」
これをカウベル等で表現しているように思います。
マーラーさんは、夏期に作曲小屋(複数あり)にこもって作曲するわけですが、この作曲小屋のほとんどがオーストリアの美しい湖の近くにあります。
朝靄の立ちこめる湖から朝日が昇るのを見て、何を思ったのでしょうか。
第3楽章は「宗教関係者のおろかな姿。」
20世紀ですからすでに神は死んでおり、主不在の状態での他者否定と幼稚な自己完結、あとは利権がらみの腐敗が宗教関係者の間ですすんでいたのではないでしょうか。
第4楽章は「マーラーの夢の王国において裁かれるキリスト教とユダヤ教。」
本来裁かれるはずもない宗教であるが、4楽章の最初の部分は幻想的な王国の出現を感じさせます。
第1楽章や第3楽章で描かれるような2つの宗教のあり方に鉄槌(ハンマー)を下したのではないかと。

う~む、ちょっと無理があるか。
でもなぁ、当時のウィーンにおける反ユダヤ主義は相当苛烈だったのではなかろうかとも思います。
もっと広げて考えるなら、2つのハンマーは宗教と民族紛争の2つを意味していたのかもしれません。
あるいは、そうした紛争を引き起こす人々の心のありようを批判したものかもしれません。

レナード バーンスタインはアルマの回想に基づいて3度ハンマーを打たせる演奏をしていますが、3つ目はイスラム教のつもりだったのかもしれません。
バーンスタインさんはユダヤ系アメリカ人であり、めずらしくユダヤ系であることを隠さなかった人です。
この手の改変、相当な思い入れというか深い考えがなければやらないでしょう。
作曲家だもんね。

とまあ、ごちゃごちゃと書いてみましたがとりとめもない。
だいたい、今年は冥王星の画像が見られる、なんてことを楽しみにしている人間が宗教を扱っているとされる音楽を語るなんて無理があるもの。
しかし、黄色いホーンシステムとマーラーは相性がいいんだ。
そして、あれこれ考えなくても、マーラーは素晴らしいのです。(2015/5/20)








2004/07/15

幸せの黄色いホーン 115話 ダークサイド留学

 

2013年3月23日、久しぶりにヨハネスさんのダークサイドに行ってきました。この2年ぐらいの間にヨハネスさんのシステムは大幅な変更があり、これは是非学ばせてもらわなければと思っておりました。2010年12月、デジタルチャンネルディバイダーのDBX4800がダークサイドに出現。DBX4800の導入は、マルチアンプの調整の容易性(メモリーによる設定の復元容易性)と、レコードプレーヤーのゴロ等の低音成分のカットが目的だったそうです。同時にアムクロンのK1、K2によるパワーアンプ群をLAB GURUPPEN(ラブグルッペン)に変更。さらに、自作PCによるPCオーディオ(配信ソフトの再生)も開始されます。また、SCULLY(スカーリー)のカッティングレースのレストアとアンペックス440の導入と、4系統の音の入口も充実。スピーカーシステム以外、以前から継続して使用している機器はCDプレーヤーのスチューダA730だけになっていました。

ヨハネスさんのチャンネルディバイダーは長い間Urei525でした。これはシステムの肝とも言うべき機種であり、今後変更されることはなかろうと思っていました。ヨハネスさんはデジタルに対し懐疑的だったため、DBX4800の導入かなり衝撃的な事件だったのです。大規模なマルチアンプシステムの場合、信用していない機器を導入することは難しい。マルチアンプシステムで音を練り上げる作業において、そうした機器が紛れ込んでいると、音に対する疑問がその機器に集中してしまい作業が進みません。当然音もまとまらない。DBX4800の導入に踏み切ったのは、JBL DSC280による30Wの制御がうまくいったからだそうです。この最低域の設定がアナログチャンネルディバイダーでは難しかったのだそうです。

閑話休題。ヨハネスさんの玄関でベルを鳴らすと奥様が迎えてくれました。初めてお会いしたのですが大変綺麗な方!なのですよ。たじろいてしまってろくな挨拶もできない始末。それに奥様に抱っこされているワンちゃんが賢い。こやつ、おとがでるだけ氏よりもかなり礼儀正しい。ダークサイドに通されると、これから掃除をしようと掃除機を出しているヨハネスさんがおりました。お昼はM支配人のお店へ。アンティークのランプ(アンプじゃないよ)が沢山あるしゃれたお店です。これらのランプは電球式で日常の生活で使えるものです。雰囲気のある2灯タイプのものがあり買おうかと思ったのですが、片方のガラスのカバー(火屋をカバーしている)を割ってしまったそうで買えませんでした。お店のカレーとソフトクリームは大変おいしかったです。M支配人お手製のチーズケーキも。最後にフライドポテトを頂き満腹です。





オーディオの話に戻しましょう。スピーカーシステムの前に立ってみると、ノイズが非常に小さくなっており、そのノイズも肌理の細かい柔らかなものでした。音を聴かせて頂くと、これはダークサイドシステムの迫力があって厚みのある音をベースに緻密で正確な音になっていました。低域から高域まで各スピーカーユニットがシームレスでつながっており、どこかの帯域が浮き上がっているようなことがありません。中低域の厚みというか、躍動感は大したもので、フロントロードホーンのJBL 4550特有の奥のほうから音がグワッと押出されてくるエモーショナルな感じが素晴らしい。これは黄色いホーンシステムが逆立ちしてもかなわない。うむむむむ。

ラブグルッペンのパワーアンプはスピーカーユニットに過電流を流さないための保護回路があり、サブウーファーの30Wは、シングルウーファーでも大入力で破壊されないそうです。このため、片方の30Wは配線がされておらず、パッシブラジエターとして動作させているそうです。今回、その世界最大とも言えるパッシブラジエターシステムを聴くことができたのですが、パッシブラジエター特有のクセが全く感じられませんでした。その特有の音は最低域よりももっと上の帯域で発生しているのでしょう。これが体験できたことは収穫です。

ボーカルを聴かせて頂くと、定位が実に安定しています。ビシッとシステムの真ん中に音像がくる。ヨハネスさんによると、6ウェイの各帯域毎に左右バランスを合わせ込むことが必要だとのことでした。そして、デジタルチャンネルディバイダーはこうした作業においても利便性が高く、また調整後の安定性に優れるそうです。アナログチャンネルディバイダーは使ったことがないので今ひとつ理解できませんでしたが、やはり6ウェイのマルチアンプシステムともなるとデジタルチャンネルディバイダーの方が扱いやすいようです。

ボリューム調整は2台のDBX4800とパワーアンプ群との間にSPLのVolume8を2台接続しています。DBX4800もVolume8もモノラル使いになっており、ボリューム調整は左右chを独立して調整することになりますが、このVolume8のボリュームには緻密な目盛りがついており、また、極めてスムーズに動くボリュームノブの大きさが適度に大きいこともあって、左右独立のボリューム調整でも全く問題がありませんでした。

今回はCDとPCによる配信ソフトを聴かせて頂きました。デジタルパッチベイのt.c.electronic dgitalkonnekt x32、2台のDBX4800、そしてPCの音源ボードは、マスタークロックジェネレーターであるミューテックのIDの96kHzのクロック信号により同期しています。このクロックジェネレーターによる同期はかなりの効果があるとのことです。PCによる配信ソフトはベルリンフィルの直営サイトからベルリンフィルのコンサートを視聴できるというものでした。年間会員(2万円程度)になると1年間無制限で視聴(ダウンロード不可)できるとのこと。膨大なアーカイブは宝の山だよ、とヨハネスさんはおっしゃっていました。確かにベルリンフィルの最新のコンサートが居ながらにして聴けるというのは魅力的です。しかも配信ソフトのサンプリング周波数は96kHz。録音も感心するほど素晴らしいものがあるとのことでした。このPCによる配信ソフトに大変興味を持ちました。

ダークサイドにおけるデジタル機器やPCオーディオの導入は大成功ではないかと思いました。音を聴いた感じでもデジタル機器で制御されているような印象は全く感じられません。オーディオは真面目に取り組むとどんどん素晴らしい音になってゆく、というのを実感できた今回のダークサイド留学、実り多きものになりました。ヨハネスさん、ありがとうございました。(2013/03/24)



2004/07/14

幸せの黄色いホーン 114話 スピーカーを走らせろ!



黄色いホーンシステムはキャスターが付いた移動式です。
使用していないときには邪魔にならない場所に片付けるためです。
下の説明図は左が片付けられた状態、右が使用時の配置を示しています。
106話でお話したアウトリビングだった場所に片付けます。 






黄色いホーンシステムは軽量化を考えながら設計したものの片CHの重量は200kgを超えます。
それでも片付けられた状態から使用可能な状態にするのに5分もかかりません。
ホーンタワーやウーファーの箱を押して移動し、スピーカーケーブルを16組のスピコンコネクタ(NL4FXとNL4MPR)により接続するだけ。
スピコンコネクタには番号を書き込んでおき、誤った接続を防止しています。
また、注意しないと見つけられないぐらいの小さな位置合わせ用テープ片を床に貼り付けました。





こんな具合にキャスター、スピコンコネクタ、位置合わせテープにより、スピーカーを簡単に片付けられるので居間が台無しになりません。
また、白ホーンシステムは製作中からキャスターを取付けていたため製作、移動、設置というすべての作業が楽でした。








2004/07/13

幸せの黄色いホーン 113話 コンサートホールの音


2010年の4月から読売日本交響楽団の名曲シリーズの年間会員になり、サントリーホールに月1回、通うようになりました。また、同ホールで行われているパイプオルガンのお昼の無料コンサートにも出かけるようになりました。コンサートホールに行ってみようと思ったのは、黄色いホーンシステムの音を深く考えてみたいと思ったからです。

大抵のオーディオシステムの場合、いい音だなぁと単純に思えればそれで済みます。ところが、常軌を逸している黄色いホーンシステムのような大規模なシステムの場合には、それだけでは済まなくなります。コンサートに行ったあとオーディオを聴くとその差に愕然とするというような話がありますが、巨大な黄色いホーンシステムの場合は、そういう失望感とは無縁です。そうなるとコンサートホールの音の完璧な再生というものを望み始めるのです。こうした願望は大規模システムを操るマニアに共通しているのではないかと思います。

コンサートホールの音と一口に言っても、それは座席によってずいぶん違います。バイオリンの近くで聴けばバイオリンの音が主張するのは当然ですし、ホルンの近くで聴けばオーケストラがブラスバンドのように聴こえます。コントラバスの近くで聴けば中低域だらけの音。こんな具合ですから、極端な話、2000席あるサントリホールの音は2000通りあることになります。オーディオ的な極端な話は嫌いなので、まとまった100席が同じ音であると仮定しますと、それでも20種類ものコンサートホールの音があることになります。さらに、指揮者のポジションで聴く音が加わると21通り。

それからもう一つあります。それは収録マイクの位置。オーケストラの上空、数メートルの位置に宙吊りされているマイク群が拾う音。それがレコードの音、CDの音。そしてこれがオーディオで言う原音の「ポジション」。誰もその位置に座って聴いたことがないのにこれがオーディオの「原音」という実に奇妙なお話。

コンサートホールの音を考える場合、直接音、初期反射、後期残響(残響音)の3種類の音を認識する必要があります。影響の大きな初期反射のほか、帯域別の後期残響時間の差なども大きな要素になります。そのようなことを考えると、あのオーケストラの上空のポジションというのは、かなり特殊な音なのではないでしょうか。つまり、直接音と初期反射の割合が大きく、その結果、後期残響の割合が少なくなっているということ。中低域の後期残響の割合が抑えられ音は明瞭になります。これはオーディオ向きのキレのある音です。

ところで、演奏者は後期残響の影響を考慮してホール毎に演奏スタイルを調整します。後期残響は音の響きというだけではなく演奏のあり方にも影響があるということです。また、演奏者は妙な後期残響を持つホールは演奏しにくいため敬遠します。コンサートホールの設計が帯域別の後期残響時間の長さを非常に重視して行なうのはこういう背景があるのです。


下のグラフはサントリーホールの帯域毎の残響時間を示したグラフです。Occupiedが客席に人がいる状態、Unoccupiedがいない状態です。なお、実際に聴いてみると満席に近い状態でも残響は優に5秒以上あります。





 

サントリーホールに通うようになってから黄色いホーンシステムの音の方向性が段々と固まってきたように思います。無限のエネルギーを秘めた重厚な音。明瞭さのために犠牲になった後期残響を含むバランス。その方向性は2010年の夏にヨハネスさんがいらっしゃったときに修正されたものの、結局、その後の再調整によりヨハネスさんがいらっしゃる前の状態に戻りました。もっとも、46cmウーファーのダクトの封鎖を片方のみとし、それに応じてイコライジングをやり直すなど、新たな設定を行ったため、元に戻ったのではなくやや前進したことは確かです。

コンサートホールの音を中心にしてオーディオを考えるようになるとネットを含めたオーディオ評論が気にならなくなります。機材の聴き比べのような話は実際の生の音とは距離のある架空の世界の話にすぎません。自信をもってオーディオを続けるために、やはり生の音を聴きに行くことが一番だと思っています。




2004/07/12

幸せの黄色いホーン 112話 ヨハネスさんと黄色いホーン(2)

 
ヨハネスさんの密閉化の実験は大成功。そこで黄色いホーンシステムの10インチの箱と18インチの箱を本格的に密閉化することにしました。ダクトを塞ぐ板はネットショップにアクリル板をカットしてもらいました。ホームセンターでの合板のカット代や水性ニス代などを考えるとアクリル板の方が安価ですし、仕上げの手間も省けるからです。



10mm厚と5mm厚のアクリル板の間に黄色い画用紙を挟み込みました。表札のような雰囲気。ネジの間隔は文房具のパンチの間隔です。パンチで画用紙にあけた小穴の位置にあわせてアクリル板に穴をあけました。画用紙を挟み込んだ状態で四隅をテープで仮止めしておき、箱にネジ止めした後にテープをはがしました。ダクトの内部には60mm圧のスポンジを詰め込み、これで密閉化完了。


密閉化による低域側のレスポンス低下はイコライジングにより補うことにしました。WinISDを使ってそれぞれの密閉箱での特性をシミュレート。そのグラフを見ながら、SH-D1000のEQCDというソフトでその密閉箱の特性を補正するカーブを検討しました。この補正カーブを設定して聴いてみると失われていた低音感が戻ってきました。理屈としては当たり前ですが、こうして低域がパワフルに鳴り出すと、にわかには信じがたい気持ちになりましたと、ここまでは良かったのです…

慣れてくると調子にのって低域側のレベルを上げ、イコライジングも欲張った設定に。さらに、システム全体のレベル設定も変更し、低音がたっぷり入っているCDを次々にかけて、バスレフに劣らない低音の量感にすっかり有頂天になってしまいました。このおばかな低音有頂天騒ぎが7月2日の深夜のこと。そして前回から約1ヶ月後の7月3日、再びヨハネスさんが来てくれました。「今日は設定なんかしないよ。聴かせてもらうだけだから。」とニコニコ。

当然、そのままで済む訳がございません。ヨハネスさんの前回の設定を呼び出し、それに低域の補正カーブを加えたところから再スタート。ヨハネスさんの指示に従ってレベル設定を変えてゆきます。やはり凄い。どんどん良くなっていきます。低域のレベルを絞っても低音の姿が明確になれば、それで十分な低音感を得られることが今回初めて分かりました。さらに、分かったことは使い手の頭の中身がとても重要だということ。はい、オーディオの良し悪しは機材の良し悪しではないのです…

それからリニアトラッキングアームのレコードプレーヤーも聴いて頂きました。「音量を上げるとジーというノイズが聴こえるのです。」と言うと、「モーターの電源部のアースをとった? 電源スイッチを切ってみてノイズが消えればそれが原因。」とのアドバイス。即座に解決。確かに電源部のアースをとり忘れていました。リニアトラッキングアームはミストラッキングすることなく動作したので一安心。もう少し針圧を上げたらどうかというのがヨハネスさんの感想。針圧を軽くすることばかり考えていたので、これは気付きませんでした。

今回も脱帽です。こちらは女性ボーカルでないとレベル調整ができないのに、クラシックの楽器の音のみで調整完了。その後、女性ボーカル等のCDを聴くとちゃんと調整ができていることがようやく分かる始末。そのほか、測定もしていないのに部屋やシステムの各帯域のクセを把握されているように思えます。設定の変更の指示内容からそれが分かるとドキッとしました。ヨハネスさんは立派な人間音響アナライザー、こちらは穴があったら入りたいさ~。それでも楽しいひと時でした。ヨハネスさん、ありがとうございました。また、来てくださいね!




2004/07/11

幸せの黄色いホーン 111話 ヨハネスさんと黄色いホーン



「おとがでるだけさん、宣戦布告文書、確かに受け取りました。
本土決戦のX-dayは、2010年6月5日としましょう。
よぉ~く首を洗っておいてくださいね。」

いよいよ黄色いホーンシステムをヨハネスさんに聴いて頂くことにしました。2色ホーンシステムが不調の時に「いえいえ黄色いホーンはこんなものではございません。あれは次元が違う。これは単なる実験システムですから。あはは…」みたいな逃げを打っておいたのが、ここにきてその逃げ場に追い込まれる事態に相成りました。返信に書いてある「本土決戦」という言葉はそういう意味なのです。う~む。

AVアンプのPS3001を導入する前、2332+2451Hを2332+2431Hに変更しました。この2431Hは3インチアルミダイアフラムを備えているドライバーです。美しい音。2430Hの後継機種であり、民生用は435ALですが、発売は435ALよりも後発です。今回はLR-48dB/octの遮断特性を採用し、2431Hの美しさを生かすようにホーンタワーの設定を慎重に行いました。さらに、ヨハネスさんに聴いて頂くのですから少し背伸びもしました。ダークサイドシステムの音を思い浮かべて、中低域を厚くしようと2392+2490Hをブースト、加えて小技を繰り出し低音は厚く重量感のある仕上がりになったような気になっていました。

ところで、ヨハネスさんというのは恐ろしく耳が良い方です。今までにダークサイドシステムで機材等の聴き比べでそれを感じました。機材の音の差異が微妙で判断しかねていると、ヨハネスさんが解説してくれます。そして、もう一度聴いてみると「なるほどなぁ。」とようやく理解。そんなヨハネスさんの耳に黄色いホーンシステムの音がどんな具合に聴こえるのか興味津々です。残念なことに今回は2時間弱程度の試聴時間しかなかったのですが、その内容は今までで一番濃かったのです。



黄色いホーンシステムを聴いたヨハネスさんは、「なかなか良い。」と言ってくれました。これはうれしかったです。「でも、低音が重い。今の設定は保存されてるんでしょ。新たに設定してもいいよね。」ご指摘の通りです。迫力はあるものの低音が何となく締りがない。不明瞭な感じ。でも、これは仕方がないものと諦めていました。

ヨハネスさんの最初の指示は「2392+2490Hを2dB下げてね。」うっ、いきなり見抜かれてる。それからが凄かった。矢継ぎ早に「46cmを0.5dB下げて。」「25cmを2dB上げて。」「61cmのクロスを45Hzに。」とどんどん指示が飛ぶ。言われたとおりにチャンデバの設定を変えてゆきます。一段落すると突然「タオル、4枚ある?」とおっしゃった。

何に使うのか分からないままタオルを用意すると、クルクル巻いたのを46cmの左右4つのダクトに詰めたのです。それから、再度レベル調整の指示。低音の質がどんどん良くなっていくのが分かります。うわぁ!と驚いていると、今度はタオル2枚。これを25cmのダクトに詰め、再度レベル調整の指示。重苦しい低音が豹変、今までの黄色いホーンシステムからは決して聴くことができなかった恐ろしく強烈で明瞭な低音が出るようになってしまいました。

「少し厳しすぎる音になったね。2360+2446Hを0.5dB下げて。」と指示されたのですが、黄色いホーンシステムの新しい音に舞い上がっていたので、誤って0.5dBブーストしてしまいました。30秒も聴かないうちに「う~ん、さらに1dB下げて。」とおっしゃる。このときメモ用紙に書きとっておいた設定データと見比べながら設定を行っていたため、誤ってブーストしてしまったことにすぐ気付きました。要するに、ヨハネスさんは、元の設定値から0.5dBカットすることを2度目の判定でも正確に行ったことになります。これには心底ゾッとしました。

低音の重さの原因を短時間で正確に判断し対処する。ヨハネスさんは耳が良いだけではなく、それを生かすことができる腕があるのです。お話を伺うと、その腕がすべて今までの経験というか苦労の連続に裏打ちされていることが分かりました。という訳で今回もとても楽しかったです。それに黄色いホーンシステムの音が1000万円分!ぐらいドーンとレベルアップしちゃいました。ヨハネスさん、遠いところまで来ていただき感謝しております。また、来てくださいね!

ちなみに問題の「宣戦布告文書」には駅の待合わせ時刻が書かれているだけです。大袈裟だなぁ…




2004/07/10

幸せの黄色いホーン 110話 PS3001



黄色いホーンのレイアウトが決まり調整を始めると音が変です。パワーアンプのSAL ES70の1台から異音が。さらに、他の1台の入力ボリュームが効かない。う~む。修理してもらおうと販売元に発送しようとすると最初に見積りをしますとのこと。現物を見ることなく故障の原因も分からないのに見積りできるの? その見積額はなんとアンプの価格の2倍弱。

ES70にはジーというノイズが出るという問題がありました。ES70は7台所有していますが、ノイズレベルとノイズの音質は何れも同じ。アースをとってみたり接続する機材を変えてみたりと原因を探ってみたのですが、このノイズを除去することはできませんでした。ちなみにベリンガーのEP1500をES70と同じ条件で使用してもこの手のノイズは一切出ません。




という訳でES70がなんとなくいやになり、代わりとなる新しいパワーアンプを探すことにしました。しかし、6台ものパワーアンプとなると、かなりお金がかかります。それに、これはというアンプが見つからない。そんなことをあれこれ半年も考えていると面倒になって、マランツのPS3001の在庫処分品を2台購入しました。1台約2万円。このPS3001は白ホーンシステムで使用しています。これで、黄色いホーンシステムは6ch分、2色ホーンシステムと白ホーンシステムは全chがAVアンプで駆動されることになりました。喜ぶべきか悲しむべきか・・・




今年(2010年)の春先にレコードプレーヤー2号機の試験運転が終了し、黄色いホーンシステムに導入しました。出窓の下が物入れになっており、その物入れの天板の上に設置したところ、ハウリングが酷い。24インチウーファーはかなり低い帯域まで出ているようで何らかの対策が必要です。物入れの天板を補強するか、それとも防振台のようなものを製作するか。これは今後の課題です。




フォノイコライザーはオーディオテクニカのAT-PEQ3。この出力をSRC2496で24ビット96kHzのデジタル信号に変換し、3台のDCX2496に供給するという構成です。白ホーンシステムの時はCDとレコードの音質差が分からなかったのですが、黄色いホーンシステムではレコードの音質が良くない。これも今後の課題。でも、新緑が映り込むLPは美しく、それがクルクル回るのを見るとそれだけでうれしくなります。




 

2004/07/09

幸せの黄色いホーン 109話 レコードとCD



アクリルプレーヤーはリニアトラッキングアームとWE308Lの2本アーム式。でも、ほとんどリニアトラッキングアームしか使っていないためWE308Lの出番がありません。2本アームが活躍するのは、リニアトラッキングアームの性能を確認するための比較試聴のときだけです。ちょっと残念。昔、2本アームのカッコよさにあこがれていたのですが、そのころはCDなんかありませんでした。その後CDが出現し、CDとレコードどっちがいいの?なんて議論が花盛りだったころにはオーディオとは無縁となり装置もレコードも失ってしまいました。

CDがすっかり定着したころステレオ装置の購入を思い立ちます。もうオーオタはごめんだ、マニアックな装置は要らない、明るい音楽生活のための堅気の装置が必要であ~る!と何故か気張って購入したのがSONYのTA-F222ESJとKENWOODのLS-11EX。当時長岡鉄男氏がほめていたからです。このプリメインアンプとデザインが共通するチューナーと5連装CDプレーヤーも同時に購入しました。CPが高くカッコいいななどと大満足。そして最初に購入したCDは、以前持っていたお気に入りのレコードのCD版。ところが、その期待のシステムから出てきたCDの音にがっかり。記憶に残っている音と比べるとまるでダメだったのです。

しかし、レコードに戻る訳にもいかず、そのままCDは増え続け、いつしか堅気の誓いも忘れ、スピーカーは徐々に巨大化してゆきます。その後李徴がどうなったかを知る者は、誰もなかった、というか今年(2010年)は寅年ですけど、おマニア心がレコードプレーヤーを出現させてしまいます。いや、その出現は去年でした、とまあ、そんなことはどうでもいいというか無駄に長い前振りですが、ここではたと気付く訳です。「CDとレコードの直接対決」ができちゃうじゃないのと。こんなことに感心するのは能天気というより時代錯誤?

いざ決戦。レコードのCD版を用意するというか、CD版となっている中古レコードを100円でゲット。それを3組用意。そして、アナログの運命を託したリニアトラッキングアームをお掃除。公平を期するためにDCX2496の設定はレコードもCDも両者共通。ところが小さいけれども「ジィー」といういやなノイズが白ホーンシステムのMR94+291-16Kから出ていることを確認。リニアトラッキングアームのアースはとっているため、それが原因ではないです。DCX2496の入力に使用しているRCAピンプラグ/XLRコネクタの変換ケーブルが怪しい。そのXLRコネクタのネジをはずして分解。コネクタの1番ピンと3番ピンとコネクタケースのアースとが1本の針金で接続されているので、このコネクタケースのアースへの針金を切断。するとノイズは消えました。パチパチパチ。これは黄色いホーン資料室で通りすがりさんから頂いたアドバイスに従ったもの。ありがとうございました。

さらに、DCX2496のアナログ入力レベルを見直します。DCX2496は業務用ですからアナログ入力の基準レベルは+4dB。しかし、RCAピンプラグ/XLRコネクタの変換ケーブルによる-10dBのごまかし入力となっていますから、CDと同じ音量になるように入力レベルを上げてみます。しかし、これはダメ。レベルオーバーになってしまうようでノイズが出るというより高域が汚れてしまいます。やはりアナログ入力はかなり注意して慎重にレベル合わせをしないとうまくいきません。カートリッジのAT-DS3/G YLは出力電圧9mVという高出力であるため、ややレベル不足の感はあるもののデジタル入力とおなじ±0dBという無難な設定にしました。

ちょっと話は変わりますが、DCX2496のデジタル入力も実は大変デリケート。DVDを再生した後にCDを再生すると、極端に音質が劣化することがあります。もしかしたらDCX2496のサンプリングレートの自動切換え?が48kHzから44.1kHzに切り替わっていないのかも。こういう場合、CDプレーヤーの演奏状態(44.1kHzのデジタル信号をDCX2496に入力している状態)でDCX2496の電源スイッチをOFFにしてからONにすると、44.1kHzを再度認識してくれるのか、正常な状態の音に戻ります。

さらに、DCX2496の出力を民生用のアンプに供給する場合には-20dB程度の固定式アッテネータを使用しないと民生用アンプが入力オーバーとなり歪みます。このようにDCX2496はデジタルチャンネルディバイダーですが、アナログとデジタルの板ばさみのような機材であり、さらに、業務用なのに民生用機材と混在して使用されることが多いためなかなか使いこなすのは大変です。また、安価な機材であるという意識が使いこなしの不備に思い至らせないのかも。DCX2496に対する否定的な評価はこうしたことが原因ではないかと思っています。こういう機材を豊富な経験(キットではないアンプの自作などの)によって使いこなし、的確なアドバイスをするというカッコいいベテランが少ないのがちと残念。

さあレコードの準備が整いました。いよいよ対決! で、どうなったかというと、これがよく分からない… レコードもいいし、CDもいい。ブラインドで取替えるようなテストをされると(プチプチノイズは別として)判別できないような気がします。う~む。勝敗がついてくれると面白かったのですが… しかし、慎重にセッティングした甲斐があり、100円の中古レコードでもその音質は十分以上でした。レコードもCDも末永く楽しませて頂くことにしましょう。




2004/07/08

幸せの黄色いホーン 108話 リニアトラッキングアーム



アクリルプレーヤーが簡単に作れてしまったため、なんとなく作り足りません。そこでアームの自作を考えはじめました。以前からインターネットを通じて、海外のオーディオマニアがリニアトラッキングアームの自作を楽しんでいることを知っていました。こうしたリニアトラッキングアームの自作はDIY心をおおいにそそります。特に、エアベアリングを使用したリニアトラッキングアームは、そのスムーズな動きが魅力的。そういえば金魚さんの空気ポンプがひとつあまっていたな…と早速行動開始。しかし、安物ポンプでは空気の吐出量が少ないようでうまくいきません。う~む。

ここで強力な空気ポンプを購入すればエアベアリングタイプのアームを製作することができたとは思うのですが、やはり誰にでもできちゃうことが分かっているものを作るのはなんとなくつまらない。DIYは工夫するのが醍醐味だもの。という訳で電脳蜘蛛之巣調査を続行してみるとボールベアリングを使用したパッシブタイプのリニアトラッキングアームを発見。これは面白そうだなぁ、とボールベアリングについて調べてみたところ、リニアブッシュという摺動部材を見つけてしまいます。さらにパイプジョイントという部材も。このリニアブッシュとパイプジョイントから自作アームの構想がフワリンと浮かび上がりました。こうしてアーム作りに翻弄される日々が始まるのです。詳しくはこちらを。




この自作リニアトラッキングアームはなんとか実用になりました。WE308Lとの比較でも音がおかしいというようなことはありません。しかし、コンベンショナルなアームに比べると非常に微妙なセッティングが要求されるためあまりお勧めできるようなものでもないです。でも、これがDIYの楽しさ。そして、オーディオの世界を豊かにしてくれる楽しさなのです。

※2009年12月21日、20万アクセスを超えました。ありがとうございます。これからもどうぞよろしく!



2004/07/07

幸せの黄色いホーン 107話 アナログプレーヤー



黄色いホーンシステムの引越しの際に倉庫を整理していると、サエクのWE308Lの箱を見つけてしまいました。どきどきしながら開けてみると新品同様のピカピカ状態。25年ぶりの再会、ノスタルジーは人を酔わせます。WE308Lは、ビクターのTT71と積層合板の重量級自作キャビネットと組み合わせて使用していました。さらにTT71にはトランスを別筐体に収めるという改造を施していました。もっとも、重量やそうした改造でどれほど音が改善されているのかさっぱり分かりませんでしたが、何故か当時の思考回路はそういう傾向を好んでいたのです。

WE308Lを見ているうちにアナログプレーヤーを作りたくなりました。とりあえず、ヤフーオークションでTT71を落札しようとしたのですが落札できません。その理由は明らか。ヤフーに利用登録料金を支払っていないため5千円以上の落札ができず、一方、TT71の平均的な落札価格は5千円以上だからです。う~む。他に中古のフォノモーターはないかと探してみたものの、やはりどの機種も人気があって5千円以上になってしまいます。そんなときにパイオニアのPL-30Lのジャンク品が出品されているのを発見。アームなしですがモーターは回りますとのこと。これを2千円で落札することができました。

WE308LとTT71によるプレーヤーシステムを使用していたころは、このシステムに大変満足していました。このため、その後登場したプレーヤー等には興味がなく、従って、PL-30Lのことも全く知らず、当然思い入れなどもありません。でも、使用してみるとTT71よりも数段進歩したフォノモーターであることが分かりました。トルクがあるように思えますし、また、プラスマイナスの両方向サーボのようです。TT71では停止する際にソレノイド駆動によるパットがこすれる音がしましたがPL-30Lでは静かに停止します。

おっかなびっくり分解してみるとキャビネットから部品を取り外してフォノモーターとして利用できそうなのですが、モーターの底部がキャビネットに固定されているタイプであるためTT71のようにはキャビネットに取付けられません。ここで、昔と同じことをするのは止めよう、付き合い方を変えてみようと思いました。だいたい重量級のキャビネットは作るのが大変です。そんなお気楽思考回路が選んだのがアクリルという素材。重いのか軽いのか、真面目なのか不真面目なのか、なんだか訳の分からない雰囲気が素晴らしい。しかも、1cm厚、10cm四方の面積で120円と良心的なアクリル屋さんをヤフーオークションのショップで見つけ、とりあえず製作してみたのが今回のレコードプレーヤーです。製作過程はこちらを。




このアクリルプレーヤー、お気楽に作れてしまった割には、なんとなく高級感があるような気もしますし、周辺光の状態で表情が美しく変わり、気に入っています。また、木工ではなくアクリルという新たな素材でDIYの経験ができたのが収穫でした。






2004/07/06

幸せの黄色いホーン 106話 黄色いホーンシステムの引越し



今年(2009年)の6月、引越しをしました。黄色いホーンシステムを置く部屋は妙に細長いLDKであり、長辺側にスピーカーを配置するとスピーカーとの距離がとれず、また、短辺側に配置するとスピーカー間の間隔が狭くなり、何れもダメです。このLDKにはアウトリビングという奇妙な空間が併設されていました。このアウトリビングというのは、家の中にあるのに床が石張りという変なスペースであり、LDKとは普通のサッシで仕切られています。大型犬でも飼っていたのかしら?

このアウトリビングという使えないスペースを何とかしようと、工務店に頼んでLDKとの境の垂れ壁、袖壁、サッシの除去、石張りの床の上にフローリングの床を設置してもらいました。費用は20万円ちょっと。アウトリビングだったスペースはLDKと一体となり、広々した感じになったものの、スピーカーの設置位置についてはいいアイディアが浮かびません。

9月半ばの連休のこと。ヒマなのであれこれ考えていると、スピーカーシステムを斜めに配置したらどうか?と思い立ちました。深夜にもかかわらず大きなスピーカーをよたよたと移動。並べてみると、左右のスピーカーの間隔も十分にとれますし、スピーカーからの距離も十分にとれることが分かりました。左側のスピーカーを設置したスペースがアウトリビングだった場所になります。左右のスピーカーで天井の高さが全く異なるのが気になりますが、おそるおそる試聴してみたところ変な感じはしません。3ヵ月半悩んだ甲斐があり、うまくいったようです。それにしても無計画な引越しでありました。深く反省。




巨大だと思っていた52型の液晶テレビが小さくみえます。ケチらず65型にすればよかった…




右側スピーカー。暖炉は使用不能になりましたとさ。




左側スピーカーです。アウトリビングだったスペースに設置。





CADで描いてみましたが、なんとなくスピーカーの角度や位置が違うような気がします。




2004/07/05

幸せの黄色いホーン 105話 V字型バッフル独立制御



V字型バッフルは中低域以上(200Hz以上)のレスポンスが、サヨナラホームランを打たれたピッチャーのようにがっくりと低下するという問題点を持っています。この原因は何でしょうか? 最初のころは向かい合う2つのウーファーユニット間の干渉ではないかと思っていました。そこで、40mm厚の発泡スチロール板をV字型バッフルの中央に押し込み、ユニット間の干渉が少なくなって音が良くなる?のかどうか試してみました。しかし、こうした実験を行ってみると、干渉だけの問題ではないというか、干渉という要素は大きなウェイトを持っていないのではないかと考えるようになりました。

リスナーの位置から見ると外側に配置されているウーファーユニット(右側の箱では右側のウーファー、左側の箱では左側のウーファー)はリスナー側を向いています。しかし、内側に配置されているウーファーユニットはリスナー側ではなく外側方向を向いている。コーン型ユニットの指向性は高域になるにつれて狭くなるため、内側のウーファーユニットから放射される中低域以上の帯域はリスナーにはほとんど届いていない。これが原因ではないかと。

そこで、V字型バッフルの独立制御を考え始めたわけです。内側に配置されているウーファーユニットの中低域以上は思い切ってカットしてしまい、外側に配置されているウーファーユニットの中低域以上の帯域をブーストする。スタガードライブですから中低域以上の帯域の干渉も少なくなりますし、V字型バッフルの低域から中低域の強力な押し出し感はそのまま生かせるはずです。

2色ホーンも少し手を加えました。上下のホーンを長ネジとアルミステーを使用して20cmほど離しました。以前、上下のホーンの間に厚みの薄い段ボール箱(DCX2496の包装箱)を挟み込んで2つのホーンを離して配置してみたのですが、2つのホーンの干渉は和らぐものの、ダンボールの響きが加わってしまうという新たな問題が生じたためです。

さらに、JBL社の2408Hというドライバーユニットを使うことにしました。下側のホーンはCH-1+RX22、これは従来のまま、そして、上側のホーンはCH-1+2408Hという組み合わせ。この2408Hはドライバーなのですが、型番から想像できるようにツィーター用です。そして、下のホーンと上のホーンは5kHzぐらいでクロスさせシリーズ接続のダブルホーンの状態を止めます。こんな具合に帯域分割してしまうと、わざわざ2つのホーンを引き離して配置したメリットがどのようなものであったか検証できません。改善できそうなことやら、見た目がカッコよくなることをハタと思いつくと嬉々として変更を加え、そのあげくの七転八倒。正気に戻ったときには音の変化の原因が何だったのか判然とせず、情けないことにその煩雑な作業の当初の目的さえもコロッと忘れていることがある…

さらにさらに、発泡スチロール板の仕切り板では仕切り板の鳴り?を聴いていた可能性もあるため、42mm厚の積層合板の仕切り板を作成しました。取外しができるように箱には接着しませんが、下辺に薄いフェルトをはさんでぐいぐい押し込むとがっちり固定できます。しかし、この仕切り板、やっぱり効果が無いというか、V字型バッフルの押し出し感を損なうような気がします。結局、この仕切り板は、V字型バッフルの箱の背面にだらしなく立て掛けてあります。「背面開放をやめて密閉にすればどうか?」というヨハネスさんのアドバイスに従い、この仕切り板により背面の開口をやや塞いだつもりです。





今回の音出しは測定から開始。V字型バッフルの独立制御はかなり複雑な設定になるため、いきなり聴感だけで調整することは諦めました。レスポンスグラフが独立制御によってどんな具合に変化するのかを知りたかったからです。測定中はホワイトノイズだけですから、システムの音の雰囲気は全然分かりません。ともかくDCX2496を駆使してリスニングポイントでのレスポンスグラフを±3dBの範囲に追い込んでゆきます。もちろん測定ポイントによりこうした測定結果は簡単にズレてしまうのは承知の上。しかし、このじゃじゃ馬システムをうまく飼い慣らすことができる自信がないので必死なのです。なんだか余裕ないなぁ…

フラットな特性の設定をDCX2496にメモリし、CDを聴いてみました。おおっ、ずいぶん改善されたね!と喜んだのも束の間、左側の2408Hの音圧レベルが異常に低いことに気付きました。う~む、欠陥品か?と思いつつ、そのまま1週間程度聴いていると徐々に音圧が上昇し、左右の2408Hの音圧が揃いました。やれやれ一安心でございます、ってこういうサエない話ばっかりですね。ところで2408Hですが、これはかなり繊細な雰囲気の美しい音でした。

左右の2408Hの音圧が揃ったところで再度測定。フラットな特性をメモリし、今度はCDを聴きながら色々な設定を試してみました。内側のウーファーユニットの受け持ち帯域を広げてゆくと、中低域の厚みが素直に増加します。クロス設定以外にも外側と内側のウーファーユニットのレベル設定を変えてみたり、それぞれにイコライジングを加えてみたりと、コントロールというよりもノーコン、暴投の連続。しかし、なかなか表情を変えてくれなかったシステム全体の音の雰囲気が、ヒラリヒラリと変わるようになりました。1ヶ月ほど調整を続けた結果、実質的に5ウェイマルチアンプシステムの2色ホーンシステムは生まれ変わったような音になりました。




2004/07/04

幸せの黄色いホーン 104話 AVC-3890



ヨハネスさんがいらっしゃった時のこと。緊張しながら客観的な立場?で聴いてみると、白ホーンシステムの高域がなんとなく妙です。それから数日経つと、この「妙な感じ」が「異常な感じ」に発展、緊急対策本部を設置し対応を協議することになりました。AVアンプやDCX2496というクセ者達の仕業か?と予想したのですが、彼らは全員シロ。安価だからという理由だけで疑ってはいけない。犯人は左側の291-16Kの磁気ギャップに付着していた小さなゴミ。

磁気ギャップのお掃除は初めての経験。ネットで調べてみると、ドライバーの先端が磁石に吸い寄せられてダイアフラムに衝突、こんなことなら何にもしなければ良かったのにね、という結末を迎えることがあるそうです。という訳で、おっかなびっくりダイアフラムを取外し、磁気ギャップのゴミを葉書に沿わせた粘着テープにくっつけよろよろと除去します。それから、もう一度おっかなびっくりダイアフラムを取付け、ようやく作業終了。どきどきしながら音を出してみると、おおっ、雑音が完治したね、神の手だね、ブラックジャックだねっ!と喜んだのもつかの間、1分ほどであの異常な感じが戻ってきました。がっくり… 手加減していてはダメだっ、と今度はマッドサイエンティストに変身。磁気ギャップを掃除機で徹底的に吸い取り、さらに粘着テープでしつこくしつこくしつこく綺麗にしました。で、こういう作業に一心不乱に没頭しちゃう頭のほうに心配があるもののユニットの方は無事全快いたしました。御休心くださるべく候。

こんな具合に291-16Kのお掃除をする少し前、2色ホーンシステムのてこ入れのために新しくAVアンプを購入しました。2色ホーンシステムの音は独特で面白なぁと思うこともありますが、やはり問題がある。もう少し何とかしてやりたい。ツィーターを加えてみるとか、ダブルウーファーの独立制御のためにマルチアンプ化を進めてみたい。そうなると使用しているYAMAHAのDSP-AX450ではパワーアンプの数が足りません。業務用パワーアンプを複数購入してのマルチアンプシステムも考えましたが費用がかかります。AVアンプによるマルチアンプなら費用も安くボリューム調整もリモコンで行うことができるため気楽です。

新しく購入するAVアンプは、DENON社かマランツ社のものと決めていました。この2つのメーカーの製品は、各パワーアンプの出力や構成が同一なのだそうです。ある日、ハイファイ堂の中古品販売サイトからDENON社のAVC-3890が同時に2台売りに出されていることに気付き、珍しく即断、2台とも購入。AVC-3890は定価15万7500円。しかし、購入価格は2台とも18000円。定価で比較すると、これが今までに保有したアンプの中で最も高価です。届いたAVC-3890は新品同様。このアンプは4年前に発売されたものであり、7台の120Wのパワーアンプを内蔵しています。1台のリモコンで2台のアンプをコントロールすることができます。リモコンでボリュームをコントロールしてみると、2台のアンプのボリューム値は常に一致したまま増減します。

今まで使用してきたDCX2496に加え、6台目となるDCX2496を購入。2台のDCX2496により6chマルチアンプシステムを作ることができます。接続はデジタル。D3C01-SRとBCJ-XP-TRBに新たに購入したY字型ケーブルを接続し、2台のDCX2496へデジタル信号を振り分けます。AVC-3890とDCX2498を2台ずつスタックすると、なかなかの奇景というか、支離滅裂?




2色ホーンシステムは、久々のじゃじゃ馬です。音出しのころは、ユニットが熟れていなかったので、それほど粗が表に出ていなかったよう思います。その後、2192と接続してしまったため、2色ホーンシステムが復活したのは昨年の春ごろでした。それから、約1年程度向き合うようになったのですが、おおっ!と身を乗り出すような音が出ることは本当に少ない。むしろ、もう少し何とかしないと…というような気持ちになることの方が圧倒的に多かったのです。

じゃじゃ馬ちゃんとしては、ジュラルミン製センターキャップの鳴きに泣かされたコーラル10F-60を2発使用したバスレフシステムと、低域も高域もまるでダメの2155Hのバスレフシステムがありました。何れも2、3年程度我慢して付き合ったものの、ともかくオーディオというのはうまくいかない趣味である、ということを骨の髄まで叩き込んで頂きました。結局、10F-60には10DU-60Bというパッシブラジエターをあてがい、また、2155HはYSTサブウーファーシステム等と組み合わせ、彼等とはめでたく停戦合意に至りました。

システムがうまく鳴ってくれない場合、君子豹変路線変更、ありがとうSL、君のこと忘れないよ…と、いきなりシステム解体、二束三文で叩き売っちゃう、そういう判断ができるのは経験豊富で腕の立つ方だけでしょう。そうではない場合、要するに経験なんかない、買いかえる余裕もない、そのうえ腕なんか立ったことなんかないっ!のないないづくしの状況では「使いこなしていないのではないかしらん?」という疑問が判断を鈍らせてしまいます。「あしたはうまく鳴るかも?」という淡い期待が裏切られ続けることを予感しつつも踏み切れない。こういうのはシステムに対する愛着というのとも違うような気がします。じゃじゃ馬システムとの付き合いは避けられない一種の試練のようなものとか、こうしたことを通じてオーディオのことをより深く理解していくのさっ…なんて嘯くのですが、理屈はどうあれ、やっぱり音はよくないままですから、これはもうホントに困まっちゃいます。今回はどんな結末が待っているのでしょうか…






2004/07/03

幸せの黄色いホーン 103話 ヨハネスさんと白ホーンシステム



2009年3月15日、春の日曜日、穏やかな午後、数km離れた駅前で待ち合わせ。落ち着かない。家に居られない。車で駅の周囲をグルグル巡回しながら時間をつぶす。どうしたものかと悩む。どこの馬の骨とも知れぬ18インチを埋め込み、ペンキをベタベタ塗りたくり、白ホーンシステムなどというフザケた命名。調子に乗ってこんなことをすれば、相応の報いを覚悟しなければならぬ。だから「よせっ!」と言ったのに… そんなことを考えているうちに、黒装束に身を固めたベーダー卿が通りの向こうに出現。休日の横断歩道が静寂に包まれる。実に危険。こちらは、アンプを暖めたのとお菓子を買いに行っただけの丸腰状態。これで白ホーンシステムからドジな音が出てしまえば…

大袈裟だなぁ~、ですね。まあ、オーディオの話ですから、そうそうドラマチックな展開にはなりません。お昼ごはんがまだとおっしゃるので、子供と一緒に春野菜ラーメンを食べに行き、煙草を吸い、なんとなくリラックス。「最近、我が家はエヴァンゲリオンブームなのです。」「あっ、あれは面白いね。」というような朗らかな会話。そんな雰囲気のまま白ホーンシステムを聴いて頂きました。いつもの数枚の試聴用CD。ちょっとドキドキしながらお聴かせすると…「ちゃんとALTECの音がするなぁ。」とヨハネスさん。おおっ、笑ってる、怒ってないね! ううっ、良かった。何だかうれしい気持ちになってきた。ありがとう。感謝の言葉、初めての言葉。あの人にも言ったことなかったのに…(エヴァのファンなら分かりますよね)

白ホーンシステムは初期調整の段階から非常にまとまりの良い音が出ており、あれこれ弄る必要がありませんでした。-24dB/octの遮断特性を選択すると、ダークサイドの音の遺伝子が感じられる分厚い音になります。ヨハネスさんには、主にこの設定で聴いて頂きました。この設定、クラシックにぴったりなのですが、それ以外のCDだともう少しすっきりさせたい気持ちになることがあります。それで-48dB/octの遮断特性の設定をあれこれ試しています。これがなかなかうまくいきません。もしかすると-36dB/octぐらいがいいのかもしれないなぁと思っています。

次に、白ホーンシステムと同じ部屋に置いてある電子ピアノシステムの2155Hと1808-8SPSを聴いて頂きました。大型ホーンを使用している白ホーンシステムには太刀打ちできませんが、伝統的なJBLサウンドを聴かせてくれます。白ホーンシステムと電子ピアノシステムは、1台のDVDプレーヤーのSPDIFのRCA端子と光端子からそれぞれデジタル信号を受信しているため、同時演奏が可能です。ワルターのブラームス交響曲第3番(モノラル)の同時演奏を行うと、「うん、これはヒントになる」とのご感想。ALTECとJBLのキャラクターが溶け合い、さらに部屋中の空気が揺り動かされるような面白い効果があります。

なんだか警戒心がすっかり無くなり、調子に乗って2色ホーンシステムも聴いて頂きました。この2色ホーンシステムにはミッドベース等を加える計画があり、その様子をみるために別アンプにつながれたLS-11EXが同時に鳴っているという変則的な状態になっていました。2色ホーンシステムの音だけ出すと「500Hzあたりが足りない。」「V字型バッフルのウーファー部のローパスフィルターを外してみよう。」とのご指摘。卿は耳が良いのはもちろんのこと、なによりも大切な「その音」への対処法が身についている。これは経験のなせる技。こういうのが、かなわないなぁと思う。こちらは何度も測定しイコライザやクロスをいじり、このシステムの詳細を把握しているので、ヨハネスさんの指摘が非常に正確であることが良く分かります。最後に、Q値を10に設定したノッチフィルターを解除し、2色ホーンの干渉によって生じる3kHzちょい上のピークを聴いて頂くと、すぐにテッシュを3枚まるめてご覧のとおり。この方法でも干渉を消すことができました。




という訳で、白ホーンシステムの前に二人して黙り込んでしまう、という最悪の状況はなんとか回避できました。オーディオは一人でコツコツ、自由で孤独が一番安心かもしれませんが、こういう緊張感のある場面を迎えるのもなかなか楽しいものです。それに、やはりスピーカー談義が面白かった。ヨハネスさん、本当にありがとうございました。また、遊んでやってくださいね。次回は黄色いホーンシステムの試聴会ですか? う~ん、これはがんばらないと!





2004/07/02

幸せの黄色いホーン 102話 LoMax18



昨年(2008年)はスピーカーの年でした。4月に黄色いホーンシステム、11月には白ホーンシステムと、怒涛の増殖、残る場所はお風呂場だけ、むやみやたらの快進撃。あげく家庭の構成員よりもスピーカーのほうが多いという事態となり、こんなところにも少子化の影が…で、作ってしまったものは仕方ありません。とことんお付き合いしたいと思います。そういえば、昨年は2155Hと付き合い始めて12年目の年でもありました。いまだ2155Hは電子ピアノシステムでがんばっています。一方、LUXKITのパワーアンプ、A501は、ブツブツという異音を出すようになり残念ながら倉庫に引退。ちょうど30年間使用しました。

白ホーンシステムの音は、フロントロードホーンによる中低域の質感が特徴的です。この手のフロントロードホーンは、厚みのある中低域を持つものの、同時に、中低域が一塊に感じられるような傾向も持っています。白ホーンシステムでは、MR94+291-16Kによる鮮やかで生々しい高域成分が、この中低域の分解能にも影響を与えており、一塊に感じられるような傾向は弱められているように思います。この充実した中低域はオーケストラの弦楽器群の厚みや力強さを実にリアルに表現します。

ところで、18インチウーファーのLoMax18は、フロントロードホーンの中低域をしっかり下支えしているため、VOTTの中低域の張り出した雰囲気を抑えています。この強力なウーファーユニットの磁気回路は2段積みされた4インチボイスコイル用のフルサイズのフェライトマグネットから構成されており、ユニットの重さは15.2kgもあります。Peavey社の他の18インチウーファーユニットと共用であると思われるアルミ鋳造製のバスケット部を備えています。この8本のスポークは厚みが薄く、指先で弾くとチンと小さく鳴ります。これはおそらく、軽量化の要請、バスケットの共振周波数を高めウーファーの受持ち帯域内での共振を排除、そして、トッププレートの放熱効率を高めネオジウム磁気回路を搭載した場合にも転用できるように工夫されているのだと思います。LoMax18を白ホーンシステムに採用した理由は、828内部に確保できる箱の容積が小さかったことと、大きな実効質量(Mms194.68g)に興味があったためです。エージング中なのでまだはっきりしたことは分かりませんが、パンチがあってクリアな性格のように思えます。なお、828のウーファー部に取り付けた2本のダクトは、開口部が12cm×14cm、長さが28cmです。





Peavey社の18インチウーファーユニットは、Black Widow BWXシリーズの1808-8SPS、1808-4SPS、1808-8CU、1808-8HEの4機種、LowRider18、今回のLoMax18、そして、ProRiderシリーズの1808-8ALCPがあります。この中でLoMax18の価格がかなり高いのですが、これは磁気回路がLoMaxシリーズのみに適用されており同磁気回路の生産数が少ないことが原因だと思います。従って、これら7機種のユニットは、業務用としての過酷な使用状況における耐久性を除き、家庭内での使用における性能においては差がないのではなかろうかと。また、安価な製品でも厳しいQC(品質管理、Quality Control)が要求されている現代においては価格が安いから品質が劣るという心配もほとんどありません。7機種の中からどれか1機種を選ぶとなると、それぞれ実効質量が異なり必要となる箱の容積も様々であるため、大いに迷いますよね。

18インチウーファーを導入すると低音問題に一応の決着がつくように思います。かなり広い部屋でも1発で十分な低音エネルギーを提供することができます。一方、こうした大口径ウーファーは、最低域まで再生するために部屋のクセの影響を強く受けたり、中低域への影響により音が濁ったりするため、使いこなすのがなかなか大変です。特に、クロス設定では、クロス周波数よりも遮断特性の方が鍵を握っているようです。中低域に濁りを感じる場合には-24dB/oct以上の急峻な遮断特性が効果的だと思っています。




2004/07/01

幸せの黄色いホーン 101話 白ホーンシステムの音出し



MR94は白色にしました。828を改造し、いまさらという感じではございますがALTEC社のイメージカラーのつもりです。白と緑色のコントラストがペパーミントのガムのように爽やか…なはず。という訳でめでたく白ホーンシステム誕生と相成りました。今回使用したペンキは、アサヒペンの水性インテリアカラーのピュアホワイトとヨーロピアングリーン。どちらもツヤ消しタイプ。塗膜はべとつかずサラッとした仕上がり。乾いてゆくと刷毛ムラが消えてゆくという不思議な塗料でした。少し水で薄めると塗りやすいです。ピュアホワイトは白壁のような白。それからヨーロピアングリーンは、光の加減で緑の深さが変わります。




46cmウーファーはPeavey社のLoMax18にしました。当初、黄色いホーンシステムや2色ホーンシステムで使用している同社のLowRider18を予定していたものの、サウンドハウスの在庫が1本だけ。同じユニットばかり使っていても仕方ないよね、と変更しました。ところで、828の改造はなかなか大変でした。2つの828(おそらく828B)は、背板に表示されていた製造番号から見て、全く同時期に製造されたものだと思います。ところが、工作精度が非常に低く、左右の箱で内部における寸法が2~3mm程度異なります。このため板取りや隙間の修正作業にかなり時間がかかってしまいました。




この828はホールで使用されていたそうです。吊り下げ用の金具を取り付けるための穴があちこちに空けてあったり、角部分が欠けていたりと、歴戦の傷跡が多数。これはセメダインの穴うめパテを使用し補修しました。このパテ、補修箇所になすりつけ、指にくっつかなくなってから形を整えるようにすると非常にうまくいきます。加工も耐水ペーパーで簡単に削れます。おかげで828は新品のように綺麗に仕上がりました。

白ホーンシステムを駆動するアンプは、マランツ社のAVアンプ、PS3001です。定価は約4万円。販売終了直後のためか2万5千円でした。60W(8Ω負荷)のアンプが7CH分搭載されています。PS3001は、サラウンドとサラウンドバックのスピーカー設定をデフォルトのスモールからラージへ変更しました。CDプレーヤーは、SONY社のDVDプレーヤー、DVP-NS53P。これは7千円ぐらい。そして、5台目となるDCX2496も購入しました。接続は2色ホーンシステムと同様、D3C01-SRとBCJ-XP-TRBを介してのデジタル入力です。なお、DCX2496の下にあるSH-D1000は、同じ部屋にある電子ピアノシステム用です。




828の上にMR94をのっけると、高さ175cm。なかなか立派です。この白ホーンシステムを配置するために、本棚等の家具を処分したりの大掃除。カーテンもカーペットも新調しました。おかげで部屋の雰囲気が明るくなり、大型スピーカーを搬入したにもかかわらず、以前よりも広く感じます。そして、2008年11月26日、面倒な配線作業を終え、ようやく音出しにこぎ着けました。罪深き828の改造、それに安価なAVアンプ。でも、その程度のことで伝統のALTECサウンドが失われるはずはありませんよね…




イコライジング等の小細工をせずに音出ししてみると、分厚い中低域が響き渡り、弦の唸りが素晴らしい。エネルギーの塊と化した828に対してMR94+291-16Kが完全に負けています。こういう音が出れば一安心。3ウェイマルチアンプですから、各帯域のエネルギー感さえ十分に確保できていれば、どのようなバランスにも仕上げることができます。特に、LoMax18の低域と3156の中低域を独立してレベル調整できるため、システム全体の音のコントロールが容易です。豪快な音やマルチアンプらしい端正な音も設定次第です。肝心の密閉化したミッドホーン部の音ですが、妙なクセはなく、気持ちのいい張り出し感があります。また、最初のころはやや眠そうな感じのLoMax18でしたが、一週間程度で目覚めてくれました。

ところで、2色ホーンシステムではDCX2496の出力を減衰させるために固定型アッテネーターを使用していました。白ホーンシステムでは、減衰量10dBと20dBの固定型アッテネーターを試してみたところ、これは20dBタイプの方が使いやすいように思います。DCX2496の出力を遠慮しないですむからです。このようにAVアンプへの出力レベルを考慮しつつ、測定なしで聴感で決めたDCX2496の設定は以下のとおりです。



Input Gain:0dB
Input EQ:109Hz BP +2dB 1.0(中低域の厚み調整)
                           Gain        HPF                LPF              EQ
1.  Bass LoMax18     +5.5dB     n/a                119Hz 24LR     35Hz BP +4dB 2.0 (最低域のブースト)
2.  Mid 3156            +4.5dB     119Hz 24LR     401Hz 24LR     223Hz BP -3dB 2.0(ミッドベースホーンの蒲鉾状の特性の補正)
3.  Treble MR94+291-16K     -4dB     401Hz 24LR     n/a     8.87kHz HP/12dB +4dB(高域端の補正、上げすぎると音が薄くなります)     401Hz BP +5dB 1.8(ホーン下限の音痩せの補正)  1.98kHz BP -2dB 0.9(定指向性ホーンの補正、下げすぎると鮮やかさが失われます)


この設定の音は、全域に渡り滑らかで透明感があり、厚みと深みが感じられます。刺激的な音やホーン型特有のビーム感は皆無。もちろん、超高能率大型スピーカーですからその力強さや迫力は恐ろしいほど。一方、小音量時でも低音が明瞭。そして、古いホール用スピーカーシステムとは到底思えない、全くあきれるほどの音の美しさ。今回は名機の改造という危ない橋でしたが、何とか渡りきったようです。譲って頂いたヨハネスさんにもこれなら申し訳が立ちそうです。末永くこの白ホーンシステムと付き合っていこうと思います。





2004/06/20

幸せの黄色いホーン 100話 2つの選択肢



おかげさまで100話になりました。ご愛読感謝しております。久しぶりに01話の2つの候補を読み返してみると、この100話と似ています。01話は1996年ごろのお話、12年も前。しかし、スピーカーシステムの構成を考えることは、その都度やっぱり難しい。いつまでたっても慣れるということがありません。音の狙いに懐具合、工作難易度と発展性、ペンキの色や妻の顔色、こうした無数のファクターを楽観的に分析。悪戦苦闘が期待できそうな構成を選択するようにしています。今回は828という完成箱なのでシステム構成の悩みとは無縁のはずですが、何故か2つの選択肢の間で惑うことになりました。

第1の選択肢は、828の持ち味を生かすために、何も手を加えず、そのままの状態でALTECシステムを鳴らすこと。これ、当たり前のことですよね。ただし、箱の外装の補修をしたりホーンにペンキを塗ったりして小奇麗な感じにします。最初のころは、この第1案で行こうと思っていました。828の濃密な中域と歯切れが良くパンチのある低音、これはALTEC独特の心地よさ。こうしたスピーカーシステムは今やとても貴重です。



上のグラフはA7/MR994Aのレスポンスグラフです。220Hzあたりの中低域に盛り上がりがあります。この手のホーン+バスレフ箱の特徴。500Hzに向かってレスポンスが下降しているのはフェーズプラグを持たないからでしょう。828について、ALTEC社は「120Hz以上はホーンロードがかかり、120Hz以下はバスレフとして働く」というような解説をしています。なお、80Hzあたりに谷があり、なんとなくバックロードのような特性です。A5システムをお持ちのARISAさんは、828のバックロード的な動作を指摘されておられました。また、グラフ上では最低域はほとんど出ていません。箱の設計ソフトを使用して828のバスレフ箱としての特性をシミュレートしてみたところ、100Hz以上の帯域からバスレフのレスポンスがウーファーユニットからの直接音のレスポンスを上回っており、ホーンの下の帯域は、ウーファーの直接音ではなく、ダクトからの音が支配的になります。

レスポンスグラフからはこうしたマイナス要素を読み取れるものの、ヨハネスさんに聴かせて頂いた時の828のJAZZは、恐ろしく生々しかった。828のホーン部の中域がMR94+291-16Kと調和していたし、パンチのある低音は、最低域の低音によってマスクされず非常に明瞭。それに、音量を上げれば最低域が出ていなくても十分に低音感が味わえます。別冊ステレオサウンド「JBL 60th Anniversary」には、「そもそもVOTTは正確な再現性など持ち合わせていなかった。ホーンとバスレフ型エンクロージャーとのレスポンスに差があることや、最高域の再現性に限界があることは、この業界では周知の事実であった。」と記載されていますが、そうした評価など、まるで無意味に感じられました。

第2の選択肢は、VOTTとは全く関係のないことが動機になっています。黄色いホーンシステムの100Hz~250Hzの帯域は25cmのダイレクトラジエーターが受け持っています。このようなミッドベース帯域をホーンにするとどんな具合なのだろうという好奇心を以前から持っていました。それなら黄色いホーンシステムのミッドベースをホーン化すれば良いのですが、828を眺めているうちに、このALTECシステムでも同じようなことができるのではないかと思い始めました。828のホーン部を密閉化し、120Hz以上の帯域のみを受け持たせる純粋なミッドベースホーンとして利用するというのはどうだろう…

828の内部は補強皆無のがらんどうです。828の内部を仕切り板で上下2分割すると、ホーン部を密閉化できるのと同時に、下部には230L程度の内寸容積を持つスペースが確保できます。この下部空間には新たにウーファーユニットを取り付け、120Hz以下を受け持たせる。この828改造案が第2の選択肢という訳です。

この2つの選択肢には悩みました。第1案なら労せずして素晴らしいALTECサウンドが手に入る。しかし、好奇心を満たしてくれる第2案も捨てがたい。それで、どうなったかというと…

46cmウーファーがピッタリのサイズ(そういう問題ではないような…)





仕切り板により密閉化されたミッドベースホーン部。






ウーファー部の内壁には禁断の補強材。




作業が進むにつれて828が姿を変えていくのが楽しく、幸せの日々でした。






2004/06/19

幸せの黄色いホーン 99話 お月見の会



2008年10月11日の夜は、ヨハネスさん、ARISAさんと一緒に、ダークサイド城の屋上でお月見をしながらバーベキューを楽しみました。月は未だ満月ではなかったものの美しく、夜風も心地よいという絵に描いたような夜でした。このオフ会、突然に召集されたため、どうしたのかしら?と思いつつ参加したのですが、それにはちゃんとした理由がありました。ダークサイドシステムが素晴らしい音を出していたのです。もちろん、ヨハネスさんは「いい音になったよ」なんて言わないので、そういう事件が起こっているとは夢にも思いませんでした。システムの変更点は、中央に天使の像(どうして天使なの?)が置かれていたのと、新たに縦方向に並べた2404Hが加わった点です。この2404Hの取り付けスタンドは、とてもよくできており、その製作にはかなり手間がかかっているように思いました。





そのシステムの音ですが、素晴らしい完成度、全体のバランスが完璧、特に印象的だったのが、透明感のある低音。大口径ウーファーを備えているシステムだと、どうしても低音エネルギーが過剰になりがちなのに、そういうことを感じさせません。後日、サントリーホールでパイプオルガンの演奏を聴きながら、これはダークサイドシステムの低音だなぁと思う程だったのです。基本的にパワフルで最低域までよく伸びています。でも、低音に膨らみや濁りがなく、高い質感と分解能によって低音の姿や色彩のようなものが感じられるのです。30Wと4550のクロスを尋ねると、「もう少し上でクロスしようと思っていたから50Hzだと思う。」とのこと。DSC280により30Wと4550の各帯域がきちんと割り振られており、これにダブルの2404Hが加わり、さらに、4550がシステム全体と協調した、あるいは、システムが4550と協調した結果なのでしょう。

ARISAさん秘蔵のMCトランスと、ヨハネスさんのマークレビンソン社製ヘッドアンプの対決。甲乙つけがたく、これは何れも素晴らしかった。しかし、この2つの名品による音の変化を聴きながら感じたのは、そうした変化がシステム全体の基礎というか音の全体像に影響を与えていないことでした。ダークサイドシステムには、それほどの音の完成度がありました。音の好みが違うはずのARISAさん、ごんた先生も「素晴らしい」と感嘆。完璧に調整された大規模マルチアンプシステムの音は、部分的な機材による音の違いや個人の好みを超越するのかもしれません。

こうしてダークサイドシステムの驚異的な音を聴きながら、この先、こんな音が出るまでオーディオを続けるのかと思うとクラクラしてきます。呆然としていると、前の席に座っていたヨハネスさんがニヤリと振り返り、ゴンゴンと拳で演奏中のレコードプレーヤーを叩きます。この完成したばかりの巨大な自作プレーヤーは、しかし、この振動を音に変えることなく平然と演奏を続けていました。




(上の2つの画像はヨハネスさんのブログから転載しました。)

素晴らしい音です、もう手を入れる必要が無いように思えます、と感想を述べると、まだまだ、とおっしゃる。ARISAさんによると、火力オーバーのバーベキューを照らしていた月は十三夜なのだそうです。なんでも十三夜の月は十五夜の満月と並ぶほど美しいとされていたとか。ヨハネスさんにとって、今回の音は十三夜の月なのかもしれません。

家に帰り、ヨハネスさんを見習ってと…ペンキ塗りに励みます。う~む、なんとなく頑張る方向が間違ってますよね。








2004/06/18

幸せの黄色いホーン 98話 VOTT(2)



VOTTの誕生に関しては、初期型と後期型の18W8があったため、技術的な下地は十分にあったと思います。そして、ALTEC社は、シァラーホーンシステムで成功し、業界で有名になったランシング氏を高く評価し、VOTTの開発を任せます。しかし、そうなるとWE社の立場をどう考えればいいのでしょうか?

1937年、集中排除法の適用によりWE社が映画館への供給を停止することになり、WE社の音響機器のメンテナンス業務を行っていたエレクトリカル リサーチ プロダクツ社(E.R.P.I.)のシアター部門が買収されてALL Technical Products社が設立され、これがアルテックサービス社になるそうです。1937年はランシング氏がアイコニックを開発した年です。

アルテックサービス社が設立された段階では、同社はWE社のシアター用音響機器の所有権とメンテナンス業務を行う権利を取得するに留まり、WE社の製品を製造する権利までは取得していなかったそうです。この製造権を同社が無償で取得するのは、ランシングマニュファクチャリング社と合併した1941年になってから。そして、ランシングマニュファクチャリング社と合併すると、ALTEC社(正確にはAltec Lansing社)はランシングマニュファクチャリング社の工場を使用してスピーカーユニットやスピーカーシステムの製造ができる状態になりました。ALTEC社は、1937年から1941年までの約5年間、WE社の在庫部品で同社製品のメンテナンス業務を行っていただけでした。

ALTEC社は、ランシングマニュファクチャリング社を買収することによって本格的な音響機器メーカーを目指すことになります。しかし、そこには2つの選択肢があったはず。一つはWE社製品の無償の製造権を生かし、WE社のシネマスピーカーシステムを製造するという道。WE社は、1936年にTA-4181A(18インチウーファーユニット)と594(4インチダイアフラムドライバー)を有するミラフォニックシステムを発表しています。もう一つの選択肢は、ランシング氏に新製品を開発してもらうこと。

もし、ALTEC社がWE社製品に魅力を感じていたならば、ランシング氏にWE社製品の製造を命ずることはできたはずです。ランシング氏がALTEC社に入ってから行った主な仕事は、Duplex(604シリーズ)の開発、励磁型ユニット(15XSや285)をアルニコ型ユニット(515や288)に更新すること、そして、新しいシネマスピーカーシステムであるVOTTの開発でした。ほとんどが新製品であることからランシングマニュファクチャリング社の既存の金型を生かすためにランシング氏の製品を採用した訳でもなさそうです。要するに、WE社製品や同製品をベースにした新製品を開発する余地は十分にあったのではないかと。

ALTEC社はWE社の製品のメンテナンスを行っていたため、誰よりもWE社の製品の音を理解しているのに、あまり高く評価していなかったのではないでしょうか。そして、WE社の製品よりもランシング氏の開発能力や彼の製品の音の素晴らしさに魅せられていたと考えています。もちろん真相は闇の中。WE社とALTEC社の関係はランシングヘリテッジの継続調査項目の一つであり、両社の関係には謎が残ったままです。なお、8インチフルレンジの755Aの生産を承継するのは1949年以降の話です。



初期のA1

VOTTの開発は、ランシング氏とジョン・ヒリヤード氏が一緒に行ったそうです。ランシング氏とヒリヤード氏は、シァラーホーンシステムも一緒に開発しています。ヒリヤード氏は、ブラックバーン博士をランシング氏に紹介したり、ケネス デッカー氏の墜落事故死によりランシングマニュファクチャリング社が窮状に陥ったときにもALTEC社との交渉を勧めたりしたそうですから、ランシング氏と仲が良かったのでしょう。また、そのときにALTEC社に新型シネマスピーカーシステムの開発をランシング氏に任せるように提言したのかもしれません。なお、ヒリヤード氏は1942年ごろにレーダーの開発にかかわっていたそうなので、VOTTのストレートホーン+バスレフ構成はランシング氏の発案だと思います。また、ランシングマニュファクチャリング社のパンフレットを見ていると”The Voice of All Radios”というキャッチフレーズが掲載されています。”Voice of the Theatre”の名付け親もランシング氏だろうと思います。なお、”Theatre”の綴りは”Theater”が正式な綴りですが、北米の映画館ではフランス語風の”Theatre”をおそらくは洒落たつもりで?使用しています。

ランシング氏とヒリヤード氏によるVOTTは、シァラーホーンシステムのユニット構成を引き継ぎ、箱の形式を一新したフルモデルチェンジ版だったと言えそうです。そして、VOTTがシァラーホーンシステムと大きく異なるのが、A7というスモールフォーマットの系列を有している点です。なお、A7のルーツは初期のA5とされていますが、しかし、このA5の箱(110)は奇妙です。スロート面積がウーファーの振動板面積よりも非常に大きく、あまりにも過負荷だと思います。210のホーン部を横倒しにしユニットも1つにしてA4の廉価版を作りましたというような印象。



初期のA5

A7の直接の前身である800システムは、ランシング氏が退社した翌年、1947年に発表されます。800システムのパンフレットによると、箱が810、ホーンがH-808、ドライバーが802、ネットワークがN-800Dであり、すべて800Hzクロスを意味する800番台の製品番号が使用されています。このような製品番号のつけ方もランシングマニュファクチャリング社のやり方を引き継いでいます。



800システム

こうしてVOTTの誕生について調べてみると、当時のALTEC社の幹部は、WE社ではなくランシング氏の才能に同社の未来を託したのだと思います。WE社の承継者がALTEC社、という見解は歴史の検証が足りないのではないかという気がしています。さらに、ALTEC社対JBL社という図式も?です。むしろ、ランシング氏のVOTTという物質的な遺産を引き継いだ者と、ランシング氏の精神的な遺産を引き継いだ者とが競い合ったと、そんな風に考えています。






2004/06/17

幸せの黄色いホーン 97話 VOTT(1)



頭の中はALTECシステムのことでいっぱいなのよぉ!という日々が続いています。V.O.T.T.(Voice of the Theatre)の歴史、システム構成の考え方、各ユニットの特徴等を調べてゆくと、これが面白くてやめられません。最新の業務用システムや業務用ユニットもそれなりの物語があるものの、シネマスピーカーの王者として長い間君臨してきたVOTTは別格。その歴史の重みに平伏してしまいます。

1935年に発表されたシァラーホーンシステム(Shearer Horn System)が商業的に成功し(70話をご参照下さい)、翌年、このシステムにアカデミー科学技術賞が贈られることになります。そして、次世代システムとなるVOTTが発表されるのが1945年。この1935年から1945年の10年間、色々なことがありました。最初はVOTT前夜のお話から。

シァラーホーンシステム開発後、1936年にランシング氏はランシングマニュファクチュアリングモニターシステム(Lansing Manufacturing Monitor System)を開発します。これは主にプレイバックモニター用であり、シァラーホーンシステムを小型化したものです。ランシングヘリテッジに開示されている1937年12月13日の日付入りのLansing Manufacturing社のパンフレットを見ると、以下のような説明がなされていました。

「シァラーホーンシステムと同等のクオリティをもち、小映画館、映写室、音楽スタジオ、学校の講堂、一般住居のように、予算やスペースが限られている場合でも設置することができます。3つの機種があり、映写室等に使用できるモデル500-Aは、幅48インチ(1インチは2.54cm)、高さ31インチ、奥行き28.5インチです。モデル500-Bは小ぶりであり、一般住居用として好ましく、幅42インチ、高さ36インチ、奥行き24インチです。そして、モデル500-Dは、2本の15XSを使用し、小映画館に適合します。500-Aよりも低域のレスポンスに優れ、より高能率です。幅は48インチ、高さ53インチ、奥行き28.5インチになります。」






ランシングヘリテッジによると、500-A(上の画像)は15XSウーファーと285の組合せだそうです。ホーンは新型で小型の805マルチセルラ。低音部はW型の折り曲げホーンタイプです。また、高さが53インチの500-Dは15XSが縦に2発並んでいたのではないかと思います。なお、285は、ステレオサウンド誌別冊「JBL 60th Anniversary」に掲載されている「JBLの歴史と遺産」(ドナルド・マクリッチー/スティーブ・シェル共著)に記載されているように、3重環状フェイズプラグを搭載した284がWE社の環状フェイズプラグの特許に抵触することを回避するために、当時ランシングマニュファクチャリング社の社員だったジョン F ブラックバーン博士が開発した放射状フェイズプラグ(Radial Phase Plug)を搭載したドライバーです。これが1976年から導入されるタンジェリン(Tangerine)フェイズプラグの元祖。

ところで、この500シリーズ、どうして「500」なのでしょう。パンフレットには「H.F. speaker(500-10,000 cycle)」との記載があるのでクロスが500Hz。この500Hzに由来していると思います。なお、805ホーンは、「8」がマルチセルラの分割数で「5」が500Hzなのでしょう。





しかし、ランシングヘリテッジによると、この500シリーズでもモニターシステムとしては大きすぎ、また、W字型の折り曲げホーンであるため中域のレスポンスが落ち込んでしまうという問題点があったそうです。そこで、ダイレクトラジエタータイプのアイコニック(ICONIC)システムが開発されることになります。これが1937年。この頃のランシング氏は毎年のように新しいことに挑戦していた訳です。アイコニックシステムには、当初、ホーンが剥き出しのモデル812と家具調のモデル810の2つのタイプ(上の画像)があり、さらに、1939年付けのパンフレットには、後期型812(下の画像)、814(812+パワーアンプ)、814-S(812+ハイゲインパワーアンプ)、810の発展型の816(下の画像)、817(816+パワーアンプ)、817-S(816+ハイゲインパワーアンプ)と機種が増えています。




このアイコニックシステムはバスレフタイプ。箱の大きさは8キュービックフット(8×28.3L=226.4L)。さらに、ユニットも新規開発されました。ウーファーユニットは15XSではなく815。これは、2インチラウンドワイヤボイスコイルの励磁型。重さ12.3kgと2インチボイスコイルとは言え立派なユニットです。また、コンプレッションドライバーは1.75インチダイアフラム/1インチスロートの801が開発されました。これも励磁型。JBL社の175の原型でもあります。そしてホーンはマルチセルラの808。ネットワークのクロスは800Hz(-12dB/oct)。

アイコニックシステムは、システム名やユニット名に800番台の番号が使用されています(808ホーンは末尾の「8」)。やはり800Hzというクロスオーバー周波数を意識してこのような型番を決定したように思います。ラージフォーマット(大規模)システムには500Hzクロス、スモールフォーマットシステムには800Hzクロスという分け方が、このアイコニックシステムの開発を契機にして明確になったのではないかと考えています。

下の画像は、ランシングヘリテッジに掲載されていた写真でランシングマニュファクチャリング社の工場内に並べられた製品群が写っています。左から後期アイコニックシステムのモデル812、家具調のモデル816、シネマスピーカーの18W8、18W5、30W5、75W5に並んでいます。2つのアイコニックシステムは後期型ですから1939年頃に撮影されたのではないでしょうか。注目すべきはストレートホーン付きの18W8。ユニット構成等が分かりませんが、末尾が「8」であることから、おそらくアイコニックのユニットが使用されていたのではないかと推測します。




ランシングマニュファクチャリング社は、1941年にアルテックサービス社に合併されてしまいますが、Altec Lansing社の1942年版のカタログを見ているとVOTTが発売されるまでシァラーホーンシステムの製造を継続していたようです。下の画像は、このカタログに掲載されている18W8です。ダイレクトラジエターのウーファーユニットを挟む一組の黒の四角い部分は…ダクトではないでしょうか。アイコニックシステムのバスレフ箱を応用しシネマスピーカーに導入してみたとか。当時のシネマスピーカーは折り曲げホーン+背面開放型が一般的だったため、この18W8のダイレクトラジエター+バスレフ型というのは斬新な構成だったと思います。なお、この18W8の説明文には800Hzクロスのネットワークを搭載していることが記載されていました。




ストレートホーン付きの前期型18W8とダイレクトラジエター+バスレフの後期型18W8。ランシング氏の悩み多き試行錯誤の時代。こうして蓄積された膨大なノウハウがストレートホーン+バスレフ構成のVOTTとして開花した、そんな気がしています。