V字型バッフルは中低域以上(200Hz以上)のレスポンスが、サヨナラホームランを打たれたピッチャーのようにがっくりと低下するという問題点を持っています。この原因は何でしょうか? 最初のころは向かい合う2つのウーファーユニット間の干渉ではないかと思っていました。そこで、40mm厚の発泡スチロール板をV字型バッフルの中央に押し込み、ユニット間の干渉が少なくなって音が良くなる?のかどうか試してみました。しかし、こうした実験を行ってみると、干渉だけの問題ではないというか、干渉という要素は大きなウェイトを持っていないのではないかと考えるようになりました。
リスナーの位置から見ると外側に配置されているウーファーユニット(右側の箱では右側のウーファー、左側の箱では左側のウーファー)はリスナー側を向いています。しかし、内側に配置されているウーファーユニットはリスナー側ではなく外側方向を向いている。コーン型ユニットの指向性は高域になるにつれて狭くなるため、内側のウーファーユニットから放射される中低域以上の帯域はリスナーにはほとんど届いていない。これが原因ではないかと。
そこで、V字型バッフルの独立制御を考え始めたわけです。内側に配置されているウーファーユニットの中低域以上は思い切ってカットしてしまい、外側に配置されているウーファーユニットの中低域以上の帯域をブーストする。スタガードライブですから中低域以上の帯域の干渉も少なくなりますし、V字型バッフルの低域から中低域の強力な押し出し感はそのまま生かせるはずです。
2色ホーンも少し手を加えました。上下のホーンを長ネジとアルミステーを使用して20cmほど離しました。以前、上下のホーンの間に厚みの薄い段ボール箱(DCX2496の包装箱)を挟み込んで2つのホーンを離して配置してみたのですが、2つのホーンの干渉は和らぐものの、ダンボールの響きが加わってしまうという新たな問題が生じたためです。
さらに、JBL社の2408Hというドライバーユニットを使うことにしました。下側のホーンはCH-1+RX22、これは従来のまま、そして、上側のホーンはCH-1+2408Hという組み合わせ。この2408Hはドライバーなのですが、型番から想像できるようにツィーター用です。そして、下のホーンと上のホーンは5kHzぐらいでクロスさせシリーズ接続のダブルホーンの状態を止めます。こんな具合に帯域分割してしまうと、わざわざ2つのホーンを引き離して配置したメリットがどのようなものであったか検証できません。改善できそうなことやら、見た目がカッコよくなることをハタと思いつくと嬉々として変更を加え、そのあげくの七転八倒。正気に戻ったときには音の変化の原因が何だったのか判然とせず、情けないことにその煩雑な作業の当初の目的さえもコロッと忘れていることがある…
さらにさらに、発泡スチロール板の仕切り板では仕切り板の鳴り?を聴いていた可能性もあるため、42mm厚の積層合板の仕切り板を作成しました。取外しができるように箱には接着しませんが、下辺に薄いフェルトをはさんでぐいぐい押し込むとがっちり固定できます。しかし、この仕切り板、やっぱり効果が無いというか、V字型バッフルの押し出し感を損なうような気がします。結局、この仕切り板は、V字型バッフルの箱の背面にだらしなく立て掛けてあります。「背面開放をやめて密閉にすればどうか?」というヨハネスさんのアドバイスに従い、この仕切り板により背面の開口をやや塞いだつもりです。
今回の音出しは測定から開始。V字型バッフルの独立制御はかなり複雑な設定になるため、いきなり聴感だけで調整することは諦めました。レスポンスグラフが独立制御によってどんな具合に変化するのかを知りたかったからです。測定中はホワイトノイズだけですから、システムの音の雰囲気は全然分かりません。ともかくDCX2496を駆使してリスニングポイントでのレスポンスグラフを±3dBの範囲に追い込んでゆきます。もちろん測定ポイントによりこうした測定結果は簡単にズレてしまうのは承知の上。しかし、このじゃじゃ馬システムをうまく飼い慣らすことができる自信がないので必死なのです。なんだか余裕ないなぁ…
フラットな特性の設定をDCX2496にメモリし、CDを聴いてみました。おおっ、ずいぶん改善されたね!と喜んだのも束の間、左側の2408Hの音圧レベルが異常に低いことに気付きました。う~む、欠陥品か?と思いつつ、そのまま1週間程度聴いていると徐々に音圧が上昇し、左右の2408Hの音圧が揃いました。やれやれ一安心でございます、ってこういうサエない話ばっかりですね。ところで2408Hですが、これはかなり繊細な雰囲気の美しい音でした。
左右の2408Hの音圧が揃ったところで再度測定。フラットな特性をメモリし、今度はCDを聴きながら色々な設定を試してみました。内側のウーファーユニットの受け持ち帯域を広げてゆくと、中低域の厚みが素直に増加します。クロス設定以外にも外側と内側のウーファーユニットのレベル設定を変えてみたり、それぞれにイコライジングを加えてみたりと、コントロールというよりもノーコン、暴投の連続。しかし、なかなか表情を変えてくれなかったシステム全体の音の雰囲気が、ヒラリヒラリと変わるようになりました。1ヶ月ほど調整を続けた結果、実質的に5ウェイマルチアンプシステムの2色ホーンシステムは生まれ変わったような音になりました。