2013/03/05

JBL 2332 and 2352 (16)

1975年3月に発表されたDON.B.KEELE,JR.(ドン キール ジュニア)氏の論文「WHAT'S SO SACRED ABOUT EXPONENTIAL HORNS? (どうしてそんなにエクスポネンシャルホーンを崇め奉るの?)」の19頁に、以下のような表が掲載されています。



この表は、周波数fIと、ホーンの寸法の関係を示しています。
右側のY軸はメートル単位、左側のはインチ単位です。
なお、表の左側にある公式は、例の定指向性ホーンの限界周波数を定めるものです。

周波数fIは、"Intercept frequency(遮断周波数)"であり、これは定指向性ホーンが所定のパターンコントロール角度を維持できる低域側の限界周波数(the lower cutoff frequency for pattern control)のことです。
何度も申し上げますが、この遮断周波数とか限界周波数という概念はエクスポネンシャルホーン等のカットオフ周波数とは異なります。

この表は、パターンコントロール角度が小さくなるほど、ホーンの寸法(水平指向性の場>合はホーンの横幅寸法、垂直指向性の場合はホーンの高さ寸法)が急激に大きくなることを示しています。
80°の場合、200Hzまで定指向性を確保しようとすると、ホーンの寸法は1.56mになります。
一方、40°の場合、200Hzまで確保しようとすると、3.12mもの大きさになります。
2352のような定指向性ホーンが、単なるラジアルホーンと比べて、高さ方向の寸法が大きく採られている理由がこれです。



以前、パターン角度を比較した上図のようなウェーブガイドホーンの作図を行ったとき、指向性の狭いホーンのスロート部分の広がり方が緩やかなのが印象に残っています。
指向性が狭いホーンは、デリケートな音波を丁寧に広げてゆき、長い長い助走距離をつけて飛ばしてやる、というイメージでしょうか。



定指向性ホーンで、例えばWE 15Aホーン並のカットオフ周波数を持たせるとどの程度の大きさになるか計算してみましょう。
15Aホーンがギブアップする70Hzまで完璧なパターンコントロールを実現するためには、指向性が80°の定指向性ホーンの場合、ホーン開口の幅、高さが共に4.46m必要になります。
上の図は、グレーのが15Aで大きいのが定指向性ホーンです。
35Hzなら2倍の9m、18Hzなら4倍の18mになります。
定指向性ホーンの低音ホーンは実現不可能、と書いた理由はこれです。











Sさんが、DIY MR94の製作過程の幾つかの画像を追加して送ってくれました。
組立工程がより詳しく理解できます。
こちらをご覧下さい。
Sさん、追加画像を送っていただき、ありがとうございました。



2013/03/03

JBL 2332 and 2352 (15)

定指向性ホーンにおけるパターンコントロールの最低カットオフ周波数(the lower cutoff frequency for pattern control)について、JBLの"Audio Engineering for Sound reinforcement"の137ページには、こんな解説があります。





「一般的な定指向性ホーンは、図11-6に示すような特性を持っている。
-6dBのカバー角度は、低域側のある周波数において狭くなる。
この周波数は、垂直方向においてはホーンの高さ寸法、水平方向においてはホーンの幅寸法によって決定される。
前記の周波数以下では、回折ホーンのようにカバー角度が増大し、周波数が半減する度に2倍になる。
この回折ホーンのようなカバー角度を示す帯域のすぐ上の周波数帯域において、カバー角度はわずかに狭くなる(図11-6の"Depended on horn mouth width"で示されている周波数域)。」

限界周波数以下においては、周波数が半減する度にカバー角度が2倍になる、というのが興味深いです。
定指向性ホーンが使いやすい理由の一つとして、低域側の特性の変化が穏やかであることがあげられます。
低域になるにつれて徐々にカバー角度がブロードになってゆくために、ダイレクトラジエターのウーファーと組合わせても違和感がないからです。

エクスポネンシャルホーン、ハイパボリック、トラクトリックス等においては、カットオフ周波数以下ではホーンが全く働かず、ホーンとしての性質が急激に失われてしまいます。
即ち、定指向性ホーンのようにホーンの性質を徐々に失ってゆくという中間領域を持ちません。
このため、中高域を受持つエクスポネンシャルホーン等にダイレクトラジエターのウーファーを組合わせると、「下とつながらない」という現象が発生します。
「下」とはダイレクトラジエターのウーファーのことです。
ホーン+コンプレッションドライバーと、ダイレクトラジエターのウーファーの指向性が大幅に異なるために、高域側と低域側の性質がちぐはぐであり、違和感を生じてしまうのです。
この解決法としては、ウーファーの最低域をカットして音を軽くする、あるいは、低域側もエクスポネンシャルホーンにするという方法があります。
ウーファーの最低域をカットするとクラシックは聴けなくなるため、正攻法で行くなら低音用エクスポネンシャルホーンと組合わせることが必要になります。
ちなみに、定指向性ホーンで低音ホーンを製作すると、これはエクスポネンシャルホーン等とは比較にならないほどの巨大なホーンになってしまうため、実現不可能であると思います。





定指向性ホーンの高域側の限界周波数については、以下のような説明があります。

「パターンコントロールの高域側の限界は、ホーン取付部におけるコンプレッションドライバーのスロート口や、ホーンの回折部であるスロット(ギャップ)の幅によって決定される。
スロート口やスロット寸法が大きくなれば、高域側の限界周波数は低くなってしまう。」

図11-6の"Dependent on driver exit diameter"で示されている周波数です。
定指向性ホーンの高域側のカットオフ周波数と言えます。
水平指向性の高域側の限界周波数を定めるスリットの幅は、2360のような2ウェイ用ホーンの場合、2cm程度です。
垂直指向性の高域側の限界周波数は、スロート口の直径になるので、これはドライバーの選択によって決定されます。
例外的に、ALTEC MR94では、スロート口の垂直方向が狭められています。
これが高域側の限界周波数を高めるためなのか、それともパターンコントロールのためなのかは、謎です。





なお、高域側の限界周波数のすぐ下の周波数帯域において指向性がブロードになる傾向が見られるのですが、この点についての説明はありません。
残念です。

以上の説明から、定指向性ホーンには垂直方向の低域側と高域側、水平方向の低域側と高域側のそれぞれ4つのカットオフ周波数が存在することが理解できたと思います。
ええっと、(14)で説明したように、このカットオフ周波数は、エクスポネンシャルホーン等のカットオフ周波数とは異なる概念なので誤解なきよう。
これが理解できると、定指向性ホーンを自作する場合、スリットの幅と低域側の限界周波数を決めてしまうと、おおむね設計できることが分かると思います。