2023/06/17

Loudspeaker Systems Design



NS10Mについてよく言われていることは、その優れた過渡特性と群遅延特性である。
優れた過渡特性は、やはりあの白いコーンのウーファーユニットがもたらすものだろうと思う。
おそらくはNS470やNS451の開発で得た経験がNS10Mで結実したのだろう。
群遅延は小容積の密閉箱であれば非常に小さくすることができる。
スピーカーのエンクロージャーの設計ソフトによってシミュレーションできるので、バスレフと密閉、容積、ダクト共振数などで群遅延特性がどのように変わるのか試してみると理解しやすい。




NS10Mは家庭内で音楽を楽しむという一般的な使用状況においては必ずしも優れたスピーカーとは言えないかもしれない。
しかし、音楽をクリアに楽しむという点ではヒントを与えてくれる。
使用しているスピーカーがなんとなくモヤつく場合には、まず、100Hz以下の低域側のレベルを下げてみよう。
-3dBではなく-6dBとか-9dBぐらい極端に。
そして、その減衰した分だけグッと音量を上げてみる。
たいてい、それでモヤつきは改善される。

モニターの音量は、細かな音まで聴き取らなければならないので大音量である。
しかも長時間の作業になるのでボイスコイルの温度上昇によるパワーコンプレッションの問題が生じる。
金属は温度が上がると電気抵抗が増えるので、ボイスコイルが熱くなると抵抗値が上がりウーファーの音量が低下してしまう。
NS10Mではそれに加え、ネットワークのコイルの過熱によるカットオフ周波数の上昇という問題点が指摘されている。

パワーコンプレッションによる低域側のレスポンスの低下は家庭内では起きないだろうが、多人数で行う試聴会の主催者になった際には気をつけたい。
瀬川冬樹氏の"JBL4350を鳴らした話"は、長時間の大音量再生により低域側のレスポンスの低下が生じ、相対的に中域がクリアに聴こえるようになったと、まあ、こんなところかもしれない。




2023/06/15

Loudspeaker Systems Design



当初NS10MはNS1000Mの残念賞みたいなスピーカーシステムだった。
そうですかあなた1000Mは高すぎますか、ならこちらはどうです1000Mを作られた仲村昭氏の手によるものです、目玉焼きぐらい僕が作りましょう...御免

しかし、レコーディングエンジニアのグレッグラダーニーが東京のスタジオで耳にしたNS10Mをロスに持ち帰ったことから状況は一変する。
自社のスピーカーシステムが世界の著名な録音スタジオのモニタールームに設置されるという見果てぬ夢は、その音だけでプロフェッショナル達に選ばれてゆくという理想的な過程を経て実現されてゆく。
それをこの残念賞のスピーカーシステムが完璧にやってのけたのである。




それまでのオーラトーン5Cに代わりNS10Mはミキサー卓のメーターパネルの上に置かれ、ニアフィールドモニターとして使用された。
主にミックスダウンに使用されるため、低域と高域を抑え、音楽の基礎的な帯域である中域が聴こえやすい小型スピーカーが望ましい。
低域に関しては小型の密閉箱と等価質量の小さな振動系であったため、300Hzぐらいから低域側にかけてレスポンスがだら下がりであった。
量感のある低音は中域を聴き取りにくくするため、NS10Mの低域特性はニアフィールドモニターとして好ましいものだった。
一方、ボブクリアマウンテンがNS10Mのツィーターをテッシュで覆ったのは有名な話である。
これはソフトドーム特有の特定帯域での鋭い指向性を緩和し、明るすぎる高音を弱めて中域を聴き取りやすくするためであった。
しかし、NS10Mの価値は、そうした帯域バランスだけではない。