2012/01/28

JBL 2267H

2267Hは2012NAMMショーで発表されたVTXシリーズに搭載されているJBLの最新型15インチコーン型ユニットです。
4インチ径ボイスコイル、デュアルボイスコイル、デュアルネオジムマグネット、ディファレンシャルドライブ。
2267Hは18インチユニットの2269Hと同じ磁気回路を備えています。
2269Hについてはこちらこちらを。






2269Hは定格入力2kW、ピーク8kWという世界屈指のハイパワーユニットです。
その性能を15インチユニットにも適用したのですから、これは現時点で世界最強の15インチユニットだと思います。
最近のJBL社の15インチユニットでようやく入手したいユニットが出現しました。
下の画像、左が2267H、右が2269Hです。






2267Hの構造は下の画像の2269Hと同じです。
ところで"Saturated Pole Tips Eliminate Flux Modulation"というのは何だろう。







2267H

FS 41Hz
QTS 0.42
QMS 8.3
QES 0.44
VAS 89L
EFF 1.4%
PE 600W
XMAX 15mm
RE 4.8Ω
LE 2mH
SD 881sq inches
BI 22.64N/A
MMS 180g


2265HのMMS112gに比べて、180gとかなり重くなっています。
もっとも、サブウーファー用15インチの2266Hは260gもありますので、現代的なウーファーではこんなものなのでしょうか。
なんとなくですが、ウーファー設計の考え方が変わってきているように思います。
これは入手して聴いてみないといけないかもね。
2265Hや2266Hについてはこちらを。




2012/01/26

JBL D2430K

D2430Kは2012NAMMショーで発表されたVTXシリーズに搭載されているJBLの最新型コンプレッションドライバーです。
2つのドライバーがスタックされている全く新しい構造を持っています。
詳しくはVTXのパンフレットD2430Kのプレス用パンフレットを。







下の画像、2つの空色の部分がネオジム磁石。
それぞれの磁石について独立した磁気回路が構成されています。

中央部には緑色の円錐状イコライザ。
そのイコライザの基部周囲には、緑色の部材と薄いオレンジ色の部材との間に隙間が形成されています。
この隙間は下の画像ではイコライザの右側基部のほうがはっきり分かります。

隙間の上下には断面がV字型に盛り上がった部分があります。
この盛り上がった部分がフェーズプラグ。
このフェーズプラグに上下のリング状ダイアフラムがそれぞれかぶさるように配置されています。
それぞれのダイアフラムの磁石側にはボイスコイルと磁気ギャップがあります。









下の画像、紫色が上部ダイアフラム、薄いオレンジ色部材が上部フェーズプラグ。
緑色部材は中央円錐状イコライザと下部フェーズプラグ、黄色が下部ダイアフラム。
オレンジ色の上部フェーズプラグの底面側には放射状のスリットが見えます。
このスリットは緑色部材の上面側にも形成されているはずです。

この放射状スリットは部材を貫通しており、フェーズプラグの小穴と連通しています。
緑色部材ではV字型断面を持つ凸部に「ハ」の字型の小穴があります。
おそらくオレンジ色の上部フェーズプラグの上面にもあるはずです。
そして、環状ダイアフラムにより圧縮された空気はフェーズプラグの小穴から放射状スリットを通り、上記の隙間に放出されます。
そしてこの隙間では上下の環状ダイアフラムからの音波が合成される。

ボイスコイルのリード部は中央部に向かって設けられており、上下ボイスコイルの端子は独立して設けられていることが分かります。
インピーダンスはそれぞれ16オームであり、並列に接続すると8Ωになります。







環状ダイアフラムとフェーズプラグの構造はBMS社のドライバーと類似する構造です。
また、D2430Kのダイアフラムはポリマー(合成樹脂)であり、この点でもBMS社のドライバーと共通します。
しかし、2つのダイアフラムが対向しているのが新しい。

ボイスコイルと磁気回路は2つあるため放熱に優れ、許容入力は2倍の200Wあります。

環状ダイアフラムは従来のドーム状のダイアフラムに比べると2つの利点があります。
ドーム状ダイアフラムは往復動の際、ダイアフラムの凸状側に変位すると、ダイアフラム中央部がへこむ。
その逆側に変位する際には、ダイアフラム中央部は膨らむ。
ソフトドームの方がハードドームよりも鋭い音になるのは、このダイアフラムの望ましくない変形量が大きいため。
環状ダイアフラムはこのダイアフラム中央部を持たないので、こうした問題がありません。

もうひとつは環状ダイアフラムの質量が小さいこと。
このため高域のレスポンスに優れる。

しかし上記のような利点の反面、環状ダイアフラムはその振動面積が小さく、能率と低域側のレスポンスが悪い。
D2430Kは対向する2つの環状ダイアフラムにより振動板面積を稼ぎ、そんな問題点を解決したというわけです。




D2430Kという型番、面白い。
24XXはドライバーの番号だけど、Double DriverのD2と組合わせたのかもね。
そして30だから、おそらくボイスコイル径は3インチだと思います。
ええっと、スロート径も今のところ不明。
これはおそらく1.5インチスロート。
2430H、2431H、2432H、2435Hの代替機種だと思うからです。

末尾のKも目新しい。
Fは2Ω、Gは4Ω、Hは8Ω、Jは16Ω。
だからKは16Ωのダブルボイスコイルという意味なのでは?




VTXのパンフレットには下記のように記載されています。
"At the heart of VTX is the D2 Dual Driver, a revolutionary device developed by JBL that dramatically improves the sound and performance of high frequencies."
また、このドライバーの構造についてはAESで発表していることも記載されています。
"Audio Engineering Society Convention Paper “Dual Diaphragm Compression Drivers,” Author Alex Voishvillo, Preprint 8502, presented at the 131st Convention, New York, Oct 2011"
D2430Kのラベルには"Patent Pending"(特許出願中)の表記もあり、JBL社のオリジナル製品であることは確実です。
"D2 Dual Driver"などの表記を見ていると、JBL社はこのドライバーを相当気に入っているように思います。
かなり音がいいのではないか。

なお、同ラベルには"Made in Mexico"という表示があったので調べてみた。
同社はロス郊外のノースリッジにある。
だからメキシコに工場があるとしたらティファナだろうなと。
JBLとTijuanaで検索するとこんなのを見つけた。

ノースリッジに工場があってそこでは主力製品を製造し、それ以外の製品をメキシコ工場で生産する、というのではなさそうだ。
米国ではもはや生産は行わず、ノースリッジの製造ラインをメキシコに移転し、すべてのJBL製品をメキシコで生産するということらしい。
ティファナには日米の企業の工場が多数あり、隣接する米国都市であるサンディエゴに研究施設を置くというパターンが多い。
ノースリッジからティファナだと3時間以上かかるような気がするが、それでも多国籍化を図るならティファナに製造拠点を移すのは最良の選択ではなかろうか。

BMS社のOEMを受けるままではどうかと思っていましたが、これでめでたく王者復活。
もともと環状ダイアフラムはランシング氏謹製075の技術。
違いは中央部のイコライザの形状。
D2430Kはエクスポネンシャルではなくコニカルなんだよね。















Commented by johannes30w at 2012-01-28 17:48 x
久しぶりにワクワクしますね!
でも、見た目がしょぼいのは時代なのかな。。。

Commented by kiirojbl at 2012-01-28 20:38 x
これの4インチ版(D2440K)とか5インチ版(D2450K)とかが出てきてミッドレンジがコーン型からコンプレッション型に戻らないかなと期待しているのです。
JBLなんだからもう少しお化粧してほしいです。
黒の縮み塗装とか無理かなぁ。
ボイスコイル焼損の場合、分解しないといけないから外観はこんなかんじにならざるを得ないのでしょうか。
う~む。


2012/01/24

Subscription Concert No.729 at Suntory Hall

東京都交響楽団の第729回定期演奏会に行ってきました。








今回の演奏会は「日本管弦楽の名曲とその源流」という企画だそうです。
曲目は野平一郎作曲、オーケストラのための「トリプティーク」、野平一郎作曲、チェロとオーケストラのための「響きの連鎖」、ブーレーズ作曲、エクラ/ミュルテプルの3曲。

オーケストラのための「トリプティーク」とチェロとオーケストラのための「響きの連鎖」の指揮者は作曲した野平さん自身でした。
エクラ/ミュルテプルの指揮者は杉山洋一さん。

いつもより遅れてホールに入るとステージで野平さんと聞き手の方との対談が終わる寸前。
う~む、アークヒルズのさしてううまくもない蕎麦など食べている場合ではなかったと後悔。
月刊都饗というパンフレットにも野平さんがご自身の曲の解説をされています。
作曲者自身のお話や解説というのは貴重ですよね。



オーケストラのための「トリプティーク」はかなり強烈でした。
うむむむ、と聴き入ってしまいました。
いろいろなイメージがどんどん湧いてきます。

高揚した気持ちで今度はチェロとオーケストラのための「響きの連鎖」。
チェロ奏者は堤剛さん。
大太鼓が4つ、分散して配置されています。
同時に4つが鳴るのではなく、1つづつ交互に鳴る感じです。
発音位置を変えることにより音の遠近感を出そうという試み。

この曲は堤剛さんの鬼気迫る好演もあり、すばらしかったです。
日本の森の中に潜んでいる怖れの対象を想起させるような深さを感じました。



エクラ/ミュルテプルは、日本初演。
もとになったエクラが15楽器、エクラ/ミュルテプルは10楽器増えて25楽器のための曲であるため、前の2曲に比べると楽器の数が少ないです。
でも、ツインバロンやチューブラーベルなどがあり、どんな風なのかなぁと興味深く聴きました。

杉山洋一さんの指揮は各楽器の余韻までもが、すべて指揮のなかに見て取れるようです。
指や手のひらの表情がオーケストラの音とそのままつながっている感じです。

今回の演奏会は、野平さんの曲とブーレーズさんの曲は同じ範疇の曲ということになっていると思うのですが、しかしその内包しているものは全然違うように思いました。
野平さんの曲は雅楽に通じるものを感じ、エクラ/ミュルテプルはやはりヨーロッパ音楽の雰囲気があります。
作曲家の個性の違いよりも文化的な背景の違いを感じました。



2012/01/17

JBL 2360A(10)

今年はオーディオ歴40周年という節目の年。
しかし、寒いのでホーンの製作ができません、というかサボってます。
そろそろ戦闘を開始せねば。
でもやっぱり寒っ…

ところでJBL HornのカテゴリDIY Speakerを製作するにあたり検討した資料の総まとめのつもり。
2360A、2392、2332や2352のこと、それからウェーブガイドホーンの理論とJBLのウェーブガイドホーンについて展開しようと思っています。
DDCHの製作時にホーンについてどの程度理解していたのかを記録に残すべきだと。








で、突然話は始まっちゃう。

2360Aは超広帯域の2ウェイ用ホーン。
それ以前のホーンシステムは5ウェイとか6ウェイにならざるを得なかった。
そういうシステムに使用されていたホーンは、必ず特定の帯域でビーム感を生じる。
そのビーム感を生じる帯域をカットするためにその帯域を他のホーンに任せた。
さらにその「他のホーン」のビーム感を生じる帯域をカットするために「さらに他のホーン」にその帯域を任せる…

ホーンがビーム感を生じる帯域を持たない場合、上記のようなホーン補完計画?とも言える5ウェイとか6ウェイのホーンシステムを構築する必要が無い。
指向性云々という以前に、ビーム感を発生しないという性格はホーンシステムの構築において大きなアドバンテージになる。
しかし、2360Aが2ウェイというシンプルな構成の4675のような比較的コンパクトなホーンシステムを構築することができるのは、他にも理由がある。
指向性というより、音響エネルギーの分布パターンのマジック。

2360Aの場合、水平指向性は90°だから、左右45°の方向において軸上よりも6dB、レスポンスが低下している。
そしてこの6dBのレスポンス低下が生じる左右角度は300Hzから10kHz以上に渡り、維持されている。
ところが帯域によってその指向性パターンは異なっている。









上のグラフはJBL Professional White Paper New 4675C-HF with 2360Bに掲載されている2360Aの水平指向性パターン。
左側のグラフの実線500Hzと右側の実線8kHzを比べてみよう。
500Hzと8kHz、どちらも300°と330°のほぼ中間、30°と60°のほぼ中間で6dB落ちになっています。
これが水平指向性90°を意味している。

ところが、実線グラフの全体の形は全然ちがいます。
500Hzの方は下半分も膨らんでいる。
これは後方(180°の方向)へも音圧が回り込んでいることを示している。
一方、8kHzの方はそうした回りこみはない。

下のグラフ、左側の実線は1.25kHz、右側は3.15kHz。
低域側になるにつれて後方への回り込みが増えてくる。
しかし、6dB落ちの角度は不変であることに注目。





オーディオマニアなら誰でも知っているように低音というのは回り込む。
2360Aの凄いところは、全ての帯域において90°という指向性だけはきっちり守りつつ、その一方、低域になるほど側方や後方への回り込みを増やしているという点。

エクスポネンシャルホーンの低域特性と比べてみると…
カットオフ周波数でがっくりとレスポンスが低下する。
このとき突然指向性がブロードになってしまう。

ダイレクトラジエターのウーファー部とこの手のホーンが聴感的につながらないというのはこれが原因。
低域になるにつれて自然な低音の回り込みを許さないホーンの場合、ウーファー部もホーンタイプにしないとうまくつながらない。

2360Aはダイレクトラジエターのウーファー部と組合わせることができる。
比較的コンパクトなホーンシステムを構築することができる、とはそういう意味なのです。









500Hz、1kHz、2kHzと等音圧線の分布はそれぞれ異なります。
しかし、-6dBの等音圧線に注目すると、何れの帯域においても、垂直(90°)の方向では20°をやや越える位置、水平(0°)では40°を超える位置を通っていることが分かります。






2012/01/06

JBL 2360A (9)

あけましておめでとうございます。
今年もよろしく。



2360Aの音が客観的に理解できるようになったのはMR94と付き合いはじめてからです。
どちらも2ウェイ用の超広帯域型大型ホーンという同じ土俵で戦う製品。
また、いずれもALTECとJBLの両社の社運をかけて開発されたという経緯があります。

この2つのホーン、音色の傾向がかなり違います。
簡単に言ってしまうと2360Aは厚みを感じさせる音、MR94と94Aは素直でストレートな音。
これはドライバーではなくホーンの違いによるもの。
この事実を知ってから、音のちがいの原因について考えるようになりました。

ホーン全体のプロポーションの相違、これについては2360A(8)で書きました。
しかしそれだけではない。
やはり2360Aの曲面構成とMR94、94Aの平面構成の差ではなかろうか、と考えています。

コニカルホーン派のBill Woodsさんも、コニカルホーンは色づけがないとおっしゃっている。
キール氏の論文でもコニカルホーンの優れた特性が紹介されている。
さらに、現代ホーンの主流であるウェーブガイドホーンもコニカルホーンが基調になっている。








当時のALTEC社はどのように考えていたのか。
キール氏の定指向性ホーン理論が登場したのは1975年3月。
MRシリーズの基になった特許出願は1977年6月27日。

上の画像はALTEC社の複合エクスポネンシャルホーンの特許出願のもの。
出願日は1977年11月21日。
MRシリーズの特許出願と略同時期。

ALTEC社の技術者はキール氏の定指向性ホーン理論を詳細に検討したと思う。
そして、彼らはその理論が複合ホーンに対して、あるいはコニカルホーンに対して新たな技術的視点を与えていることに気付いた。
そこでフレアレートの異なるエクスポネンシャルホーンの複合形態も試してみたのだろう。






ALTEC社ほどホーンと長く付き合い続け、そして苦しめ続けられたメーカーはない。
それだけにホーンを、特にエクスポネンシャルホーンを知り尽くしている。
そのALTEC社が最後に辿り着いたのがコニカルホーンの複合形態だった。
これはとても興味深い事実だ。

2360AとMR94、94A、どちらが優れているのか。
ビジネスの観点からは2360A、音の観点からはMR94、94Aだと思っている。
2360Aは15インチダブルウーファーとの組み合わせを想定して音造りがなされているように思える。
MR94、94Aはそうした用途を限定することがないままに純粋に完成度の高いホーンを目指して作られたのではないか。

しかし優れた戦略が無ければ市場では敗北する。
ALTEC社は優れた兵器の開発に成功したが戦略で失敗した、のかもしれない。