2004/06/02

幸せの黄色いホーン 82話 ミッドベースユニット



ミッドベースユニットはPEAVEY社の1008-8HE BWXにしました。10インチ(25cm)のホーン用ユニットです。Fs62Hz、Qts0.303、Mms40.2g、4インチ径アルミリボンボイスコイル、重さ6.8kg。許容入力は、連続500W、プログラム1000W、ピーク2000W。姉妹機種にバスレフ用の1008-8SPSがあります。なお、ミッドベースの25cm口径で4インチボイスコイルを搭載した同類はMcCauley社の6328やD.A.S.Audio社の10-B、10-BNとごく少数です。



1008-8HEとその交換用バスケット(1008-8HE BWX RB)

30cmではなく25cmを選んだのは大昔にコーラル社の10F-60という25cmフルレンジユニットと使っていたため親近感があるからです。また、25cmという口径は大口径ウーファーで感じられるような面で押してくる雰囲気がなく、2392+2490Hの低域側の領域を濁らさないのではないかと思ったからです。

他社のミッドベースユニットも検討してみました。でも、JBL社の25cmは3インチボイスコイル、EV社では2.5インチボイスコイル。これでは地味目のミッドベースユニットのイメージがさらに地味な感じに。でも、ミッドベースユニットって割と本音で作れる明るい性格?のユニットなんです。ウーファーユニットやフルレンジユニットのように、あちらが立てばこちらが立たず、というようなジレンマに陥るようなことが少ないはず。

例えば、業務用ミッドベースユニットの多くはBLファクターが大きいです。このBLファクターというのはスピーカーの駆動力を示しています。単位はT/mまたはN/A。T/mというのはTesla-metersのことで磁気回路のギャップにおける磁束密度とそのギャップの磁界を横切っているボイスコイルの線材の長さの積。また、N/AというのはNewtons per Ampereの意味で、1Aをボイスコイルに流した際に、どの程度の力が発揮されるかを示しています。2つの単位はこのように考え方が違うのですが、1T/m=1N/Aであるため、どちらの単位を用いてもBLファクターの数値は同じです。

BLファクターを大きくしてゆくと駆動力が大きくなるため、同時にQ値が小さくなってしまい最低域が出にくくなります。でも、ミッドベースユニットなら最低域の再生能力は問われないのでQ値が小さくなってもあまり関係ありません。ウーファーユニットではBLファクターが大きくなると最低域が出づらくなるのです。

また、BLファクターを大きくするためには、より強力な磁石を使用するか、ボイスコイルの巻き数を増やせばいいのですが、ボイスコイルの巻き数を増やすとインダクタンスも増え、高域側のインピーダンスが上昇し高域が出にくくなくなります。大きな磁気回路を備えているフルレンジユニットのBLファクターが意外と小さいのはこのためです。

さらに、ミッドベースユニットでは、ウーファーユニットのようにコーン紙の振幅を確保する必要もありません。磁気ギャップからボイスコイルが外れるまで片道の振幅幅(しんぷくはば)がXmax。Xmaxを稼ごうとすると、ショートボイスコイル/ディープギャップタイプであろうが、ロングボイスコイル/ショートギャップタイプであろうがBLファクターは小さくなってしまいます。磁気ギャップの深さが深くなれば磁束はまばらになり、ボイスコイルの巻き幅を増やすにはまばらに巻くしかない訳です。(ショートボイスコイル等についてはハーマンインターナショナルの解説をご参照下さい。)

という訳で、ミッドベースユニットなら低音は出さなくてもいいよ、高音も出さなくてもいいよ、自由にやっていいよ、という甘い環境なのかというと実はそうでもなく、特にミッドベースホーン用のユニットは実効質量が重めであることに気付きます。ホーンロードがばっちりかけられた上に家庭用ユニットが一瞬で焼損するような入力に長期に渡って耐えなければならないのでコーン紙に高い剛性が求められているからでしょう。



QW-1

PEAVEY社は、1008-8HEを中高音用スピーカーシステムであるのQW-1に使用しています。QW-1は、ホーンと組み合せた1008-8HEを2本と、CH-642QTホーン+44XTを備えています。44XTは4インチダイアフラムのコンプレッションドライバーです。このシステムは200Hz~18kHzを±3dBで再生することができるそうです。

QW-1は、QW-215とQW-218に組み合せ、4ウェイシステムにすることが推奨されています。QW-215はプロライダー15(1508-8ALCPなのか1508-8CUCPなのかは不明)を2本搭載した38cmダブルウーファーシステムであり、QW-218はローライダー18(1808-8HPS)を2本搭載した46cmダブルのサブウーファーシステムです。ホーンと組み合せた2本の1008-8HEは、計4本の大口径ユニットにバランスするだけの能力があることが分かります。PEAVEY社はQW-1以前にも30cmコーン型ユニットと組み合せた大型ホーンのミッドベースシステムを販売しており、この手のユニットやホーン型のミッドベースシステムが好きなのかもしれません。

1008-8HEはホーン用なのでホーンを製作しなければならないのですが、置き場所と気力、そして肝心の設計能力がないのでパス。パンフレットには8.5L、12.7L、17Lの比較的小さな3種類のバスレフ箱が推奨されていましたのでこれ幸いと小箱でお茶を濁すことにしました。しかし、大型のV字型バッフルを製作するという可能性(大抵は計画倒れです)もあるので左右計4本を購入。

21mm厚のサブロクシナ合板を1枚半使用。外寸は縦75cm×横30cm×奥行き28.2cm。内寸容積は約44L、実効容積37Lとなりユニット1本あたりの実効容積は18.5Lになりました。ダクト開口14cm×6cm、ダクト長9.2cm。ダクトの共振数は70Hzを少し下回る程度です。あまりのかわいらしさに製作はお手軽を極め大した苦労もなくあっさり完成しました。








2004/06/01

幸せの黄色いホーン 81話 ミッドベースの形式を考えよう



黄色いホーンシステムは約250Hzでクロスした大型ホーンと46cmウーファーの組合せです。理屈の上ではかなり苦しい構成ですが、遮断特性のQ値を調整し、ロー側とハイ側のクロス周波数をバラバラに設定するなどの悪戦苦闘を繰り返したところ、これは案外マトモな音に(そう思っているのはおめでたい本人だけ)。しかし、2392+2490Hでも同様の方法で誤魔化してしまうのではちょっと退屈。という訳で今回はミッドベースの導入を考えることにしました。

ミッドベースの形式としては、ダイレクトラジエター型やホーン型、あるいは中間的なV字型バッフルのようなタイプが考えられますよね。そこで色々と調べてみました。最初は、ダイレクトラジエター型。ダイレクトラジエター型と言っても、使用するユニットの数によって中低域の質感が相当違ってくるようです。2392(あるいは2392S)+2490Hを使用している5671、5672、5674(カタログ散策03話をご参照下さい)のダイレクティビティ ファクター(directivity factor/指向係数)のグラフを比較してみると、シングルウーファー、ダブルウーファー、4発ウーファーの中低域の特性に差があることが分かります。



5671(シングルウーファー)


5672(ダブルウーファー)



5674(4発ウーファー)


このダイレクティビティ ファクターとは、スピーカーの主軸方向の音圧とスピーカーを中心とする球体面上で音圧の平均値との比だそうです。イメージが湧かないので、スピーカーからあらゆる方向に放射される音の内、スピーカーの軸上に吹っ飛んでくる音の割合を示す特性と理解しています。ちなみにダイレクティビティ インデックス(directivity index/指向指数)は、ダイレクティビティ ファクターの常用対数の10倍を示したものだそうです。ダイレクティビティ ファクターの測定方法は、無響音室内でスピーカーを適当な角度で上下左右斜めに回転させて測定するのではなかろうかと考えています。

ダイレクティビティ ファクターの数値、具体的には、無指向性スピーカーを反射のない空間に吊り下げた場合(自由空間)、ダイレクティビティ ファクターの値は「1」になるそうです。この無指向性スピーカーを床の上に置いた場合には「2」、さらに背面壁を加え「床+背面壁」にすると「4」、さらに部屋の隅のように左右何れかの側壁を加え「床+背面壁+側壁」にすると「8」。しかし、それ以上はどう考えればよいのか残念ながら分かりません。そして低域になるほど指向性はブロードになりますから、それに応じてダイレクティビティ ファクターの数値は小さくなります。

ちなみに、サブウーファー等の周波数レスポンスグラフで表示されている4π空間、2π空間などの表示もダイレクティビティ ファクターと似たような捉え方。4π空間とは自由空間、2π空間は床の上、π空間は「床+背面壁」、π/2空間は「床+背面壁+側壁」。下のグラフでは破線が4π空間での特性を示し、実線が2π空間での特性を示しています。


ASB6128V(55話をご参照ください)


話を戻し5671、5672、5674の3機種を比べてみると、100Hz以下のダイレクティビティ ファクターには大きな差がありません。しかし、100Hz~250Hzの中低域のダイレクティビティ ファクターでは、5671や5672に見られる落ち込みが5674にはありません。要するに5674では、4発ウーファー部と2392+2490Hのホーン部とのそれぞれのダイレクティビティ ファクターがなだらかに連続している訳なのです。ダイレクトラジエター型のウーファー部がホーン型のミッド部とうまく適合している好例でしょう。ごさ丸さん作バーチカルクワドの中低域の充実感はこれが原因だと思っています。

ダイレクトラジエター型ではなく巨大ホーンならどうなるのでしょう。例えば、エレクトロボイスのMH6040AC。開口部のサイズが縦98.1cm、横147.9cm。そして奥行きは187.8cm。100Hz以上で使用可能な定指向性(60°×40°)のスタジアム用同軸ホーンです。この同軸ホーンの中低域用ホーンを300Hz以下で使うなら、ダイレクティビティ ファクターの値は2392+2490Hにも適合しそうです。しかし、2392に合わせるために90°×50°の定指向性を持たせ、MH6040ACと同程度のダイレクティビティ ファクターの値を確保するとなると、ホーン全体の大きさはさらに巨大なものになるでしょう。



MH6040AC



MH6040ACのダイレクティビティ ファクター

ついでに中高域用のホーンにおけるホーンサイズとダイレクティビティ ファクターとの関係も。小さいほうから順に2381(90°×50°)、2352(90°×50°)、2360A(90°×40°)、2392(90°×50°)のグラフを並べてみました。なお、2381というのは2380Aのスロート部を1.5インチ径に変更したものです。


2381




2352

 


2360A



2392

このように中低域側において正面に吹っ飛んでくる音圧の割合はホーンが大きくなるほど大きくなります。これは聴感上どうなのかというと、ホーンが大きくなるほど大人しい印象になります。何故って、中低域と中高域のダイレクティビティ ファクターが略同値になるため、耳につきやすい中高域の吹っ飛び具合が相対的に控えめに感じられるからでしょう。

さらに、90°×50°、60°×40°、40°×30°を比べてみました。60°×40°や40°×30°のホーンでは、2kHz以上での盛り上がりが顕著であり、高域になるほど正面に吹っ飛んでくる音圧の割合が大きくなることが分かります。演奏者との近接感や鮮やかな感じを出しやすい特性だと思います。


 2352(90°×50°)


2353(60°×40°)



2354(40°×30°)

こんな具合にダイレクティビティ ファクターという特性からミッドベースの箱の形式を考えてみるものの、実際には、床、天井、背面壁、両側壁のある部屋の中で使うのですから、この数値だけでは何も語れないかもしれません。それはともかく、巨大なスタジアムホーンは今のところ設置スペースがありません。また、5674のようなダイレクトラジエタータイプ4発では左右計8発のユニットが必要となり、これは資力検査が厳しい結果に。こうなるとダイレクティビティ ファクターのことを勉強しても何にもなりませんね。ガックリ。