おかげさまで100話になりました。ご愛読感謝しております。久しぶりに01話の2つの候補を読み返してみると、この100話と似ています。01話は1996年ごろのお話、12年も前。しかし、スピーカーシステムの構成を考えることは、その都度やっぱり難しい。いつまでたっても慣れるということがありません。音の狙いに懐具合、工作難易度と発展性、ペンキの色や妻の顔色、こうした無数のファクターを楽観的に分析。悪戦苦闘が期待できそうな構成を選択するようにしています。今回は828という完成箱なのでシステム構成の悩みとは無縁のはずですが、何故か2つの選択肢の間で惑うことになりました。
第1の選択肢は、828の持ち味を生かすために、何も手を加えず、そのままの状態でALTECシステムを鳴らすこと。これ、当たり前のことですよね。ただし、箱の外装の補修をしたりホーンにペンキを塗ったりして小奇麗な感じにします。最初のころは、この第1案で行こうと思っていました。828の濃密な中域と歯切れが良くパンチのある低音、これはALTEC独特の心地よさ。こうしたスピーカーシステムは今やとても貴重です。
上のグラフはA7/MR994Aのレスポンスグラフです。220Hzあたりの中低域に盛り上がりがあります。この手のホーン+バスレフ箱の特徴。500Hzに向かってレスポンスが下降しているのはフェーズプラグを持たないからでしょう。828について、ALTEC社は「120Hz以上はホーンロードがかかり、120Hz以下はバスレフとして働く」というような解説をしています。なお、80Hzあたりに谷があり、なんとなくバックロードのような特性です。A5システムをお持ちのARISAさんは、828のバックロード的な動作を指摘されておられました。また、グラフ上では最低域はほとんど出ていません。箱の設計ソフトを使用して828のバスレフ箱としての特性をシミュレートしてみたところ、100Hz以上の帯域からバスレフのレスポンスがウーファーユニットからの直接音のレスポンスを上回っており、ホーンの下の帯域は、ウーファーの直接音ではなく、ダクトからの音が支配的になります。
レスポンスグラフからはこうしたマイナス要素を読み取れるものの、ヨハネスさんに聴かせて頂いた時の828のJAZZは、恐ろしく生々しかった。828のホーン部の中域がMR94+291-16Kと調和していたし、パンチのある低音は、最低域の低音によってマスクされず非常に明瞭。それに、音量を上げれば最低域が出ていなくても十分に低音感が味わえます。別冊ステレオサウンド「JBL 60th Anniversary」には、「そもそもVOTTは正確な再現性など持ち合わせていなかった。ホーンとバスレフ型エンクロージャーとのレスポンスに差があることや、最高域の再現性に限界があることは、この業界では周知の事実であった。」と記載されていますが、そうした評価など、まるで無意味に感じられました。
第2の選択肢は、VOTTとは全く関係のないことが動機になっています。黄色いホーンシステムの100Hz~250Hzの帯域は25cmのダイレクトラジエーターが受け持っています。このようなミッドベース帯域をホーンにするとどんな具合なのだろうという好奇心を以前から持っていました。それなら黄色いホーンシステムのミッドベースをホーン化すれば良いのですが、828を眺めているうちに、このALTECシステムでも同じようなことができるのではないかと思い始めました。828のホーン部を密閉化し、120Hz以上の帯域のみを受け持たせる純粋なミッドベースホーンとして利用するというのはどうだろう…
828の内部は補強皆無のがらんどうです。828の内部を仕切り板で上下2分割すると、ホーン部を密閉化できるのと同時に、下部には230L程度の内寸容積を持つスペースが確保できます。この下部空間には新たにウーファーユニットを取り付け、120Hz以下を受け持たせる。この828改造案が第2の選択肢という訳です。
この2つの選択肢には悩みました。第1案なら労せずして素晴らしいALTECサウンドが手に入る。しかし、好奇心を満たしてくれる第2案も捨てがたい。それで、どうなったかというと…
46cmウーファーがピッタリのサイズ(そういう問題ではないような…)
仕切り板により密閉化されたミッドベースホーン部。
ウーファー部の内壁には禁断の補強材。
作業が進むにつれて828が姿を変えていくのが楽しく、幸せの日々でした。