2004/07/13

幸せの黄色いホーン 113話 コンサートホールの音


2010年の4月から読売日本交響楽団の名曲シリーズの年間会員になり、サントリーホールに月1回、通うようになりました。また、同ホールで行われているパイプオルガンのお昼の無料コンサートにも出かけるようになりました。コンサートホールに行ってみようと思ったのは、黄色いホーンシステムの音を深く考えてみたいと思ったからです。

大抵のオーディオシステムの場合、いい音だなぁと単純に思えればそれで済みます。ところが、常軌を逸している黄色いホーンシステムのような大規模なシステムの場合には、それだけでは済まなくなります。コンサートに行ったあとオーディオを聴くとその差に愕然とするというような話がありますが、巨大な黄色いホーンシステムの場合は、そういう失望感とは無縁です。そうなるとコンサートホールの音の完璧な再生というものを望み始めるのです。こうした願望は大規模システムを操るマニアに共通しているのではないかと思います。

コンサートホールの音と一口に言っても、それは座席によってずいぶん違います。バイオリンの近くで聴けばバイオリンの音が主張するのは当然ですし、ホルンの近くで聴けばオーケストラがブラスバンドのように聴こえます。コントラバスの近くで聴けば中低域だらけの音。こんな具合ですから、極端な話、2000席あるサントリホールの音は2000通りあることになります。オーディオ的な極端な話は嫌いなので、まとまった100席が同じ音であると仮定しますと、それでも20種類ものコンサートホールの音があることになります。さらに、指揮者のポジションで聴く音が加わると21通り。

それからもう一つあります。それは収録マイクの位置。オーケストラの上空、数メートルの位置に宙吊りされているマイク群が拾う音。それがレコードの音、CDの音。そしてこれがオーディオで言う原音の「ポジション」。誰もその位置に座って聴いたことがないのにこれがオーディオの「原音」という実に奇妙なお話。

コンサートホールの音を考える場合、直接音、初期反射、後期残響(残響音)の3種類の音を認識する必要があります。影響の大きな初期反射のほか、帯域別の後期残響時間の差なども大きな要素になります。そのようなことを考えると、あのオーケストラの上空のポジションというのは、かなり特殊な音なのではないでしょうか。つまり、直接音と初期反射の割合が大きく、その結果、後期残響の割合が少なくなっているということ。中低域の後期残響の割合が抑えられ音は明瞭になります。これはオーディオ向きのキレのある音です。

ところで、演奏者は後期残響の影響を考慮してホール毎に演奏スタイルを調整します。後期残響は音の響きというだけではなく演奏のあり方にも影響があるということです。また、演奏者は妙な後期残響を持つホールは演奏しにくいため敬遠します。コンサートホールの設計が帯域別の後期残響時間の長さを非常に重視して行なうのはこういう背景があるのです。


下のグラフはサントリーホールの帯域毎の残響時間を示したグラフです。Occupiedが客席に人がいる状態、Unoccupiedがいない状態です。なお、実際に聴いてみると満席に近い状態でも残響は優に5秒以上あります。





 

サントリーホールに通うようになってから黄色いホーンシステムの音の方向性が段々と固まってきたように思います。無限のエネルギーを秘めた重厚な音。明瞭さのために犠牲になった後期残響を含むバランス。その方向性は2010年の夏にヨハネスさんがいらっしゃったときに修正されたものの、結局、その後の再調整によりヨハネスさんがいらっしゃる前の状態に戻りました。もっとも、46cmウーファーのダクトの封鎖を片方のみとし、それに応じてイコライジングをやり直すなど、新たな設定を行ったため、元に戻ったのではなくやや前進したことは確かです。

コンサートホールの音を中心にしてオーディオを考えるようになるとネットを含めたオーディオ評論が気にならなくなります。機材の聴き比べのような話は実際の生の音とは距離のある架空の世界の話にすぎません。自信をもってオーディオを続けるために、やはり生の音を聴きに行くことが一番だと思っています。




2004/07/12

幸せの黄色いホーン 112話 ヨハネスさんと黄色いホーン(2)

 
ヨハネスさんの密閉化の実験は大成功。そこで黄色いホーンシステムの10インチの箱と18インチの箱を本格的に密閉化することにしました。ダクトを塞ぐ板はネットショップにアクリル板をカットしてもらいました。ホームセンターでの合板のカット代や水性ニス代などを考えるとアクリル板の方が安価ですし、仕上げの手間も省けるからです。



10mm厚と5mm厚のアクリル板の間に黄色い画用紙を挟み込みました。表札のような雰囲気。ネジの間隔は文房具のパンチの間隔です。パンチで画用紙にあけた小穴の位置にあわせてアクリル板に穴をあけました。画用紙を挟み込んだ状態で四隅をテープで仮止めしておき、箱にネジ止めした後にテープをはがしました。ダクトの内部には60mm圧のスポンジを詰め込み、これで密閉化完了。


密閉化による低域側のレスポンス低下はイコライジングにより補うことにしました。WinISDを使ってそれぞれの密閉箱での特性をシミュレート。そのグラフを見ながら、SH-D1000のEQCDというソフトでその密閉箱の特性を補正するカーブを検討しました。この補正カーブを設定して聴いてみると失われていた低音感が戻ってきました。理屈としては当たり前ですが、こうして低域がパワフルに鳴り出すと、にわかには信じがたい気持ちになりましたと、ここまでは良かったのです…

慣れてくると調子にのって低域側のレベルを上げ、イコライジングも欲張った設定に。さらに、システム全体のレベル設定も変更し、低音がたっぷり入っているCDを次々にかけて、バスレフに劣らない低音の量感にすっかり有頂天になってしまいました。このおばかな低音有頂天騒ぎが7月2日の深夜のこと。そして前回から約1ヶ月後の7月3日、再びヨハネスさんが来てくれました。「今日は設定なんかしないよ。聴かせてもらうだけだから。」とニコニコ。

当然、そのままで済む訳がございません。ヨハネスさんの前回の設定を呼び出し、それに低域の補正カーブを加えたところから再スタート。ヨハネスさんの指示に従ってレベル設定を変えてゆきます。やはり凄い。どんどん良くなっていきます。低域のレベルを絞っても低音の姿が明確になれば、それで十分な低音感を得られることが今回初めて分かりました。さらに、分かったことは使い手の頭の中身がとても重要だということ。はい、オーディオの良し悪しは機材の良し悪しではないのです…

それからリニアトラッキングアームのレコードプレーヤーも聴いて頂きました。「音量を上げるとジーというノイズが聴こえるのです。」と言うと、「モーターの電源部のアースをとった? 電源スイッチを切ってみてノイズが消えればそれが原因。」とのアドバイス。即座に解決。確かに電源部のアースをとり忘れていました。リニアトラッキングアームはミストラッキングすることなく動作したので一安心。もう少し針圧を上げたらどうかというのがヨハネスさんの感想。針圧を軽くすることばかり考えていたので、これは気付きませんでした。

今回も脱帽です。こちらは女性ボーカルでないとレベル調整ができないのに、クラシックの楽器の音のみで調整完了。その後、女性ボーカル等のCDを聴くとちゃんと調整ができていることがようやく分かる始末。そのほか、測定もしていないのに部屋やシステムの各帯域のクセを把握されているように思えます。設定の変更の指示内容からそれが分かるとドキッとしました。ヨハネスさんは立派な人間音響アナライザー、こちらは穴があったら入りたいさ~。それでも楽しいひと時でした。ヨハネスさん、ありがとうございました。また、来てくださいね!