2013/03/03

JBL 2332 and 2352 (15)

定指向性ホーンにおけるパターンコントロールの最低カットオフ周波数(the lower cutoff frequency for pattern control)について、JBLの"Audio Engineering for Sound reinforcement"の137ページには、こんな解説があります。





「一般的な定指向性ホーンは、図11-6に示すような特性を持っている。
-6dBのカバー角度は、低域側のある周波数において狭くなる。
この周波数は、垂直方向においてはホーンの高さ寸法、水平方向においてはホーンの幅寸法によって決定される。
前記の周波数以下では、回折ホーンのようにカバー角度が増大し、周波数が半減する度に2倍になる。
この回折ホーンのようなカバー角度を示す帯域のすぐ上の周波数帯域において、カバー角度はわずかに狭くなる(図11-6の"Depended on horn mouth width"で示されている周波数域)。」

限界周波数以下においては、周波数が半減する度にカバー角度が2倍になる、というのが興味深いです。
定指向性ホーンが使いやすい理由の一つとして、低域側の特性の変化が穏やかであることがあげられます。
低域になるにつれて徐々にカバー角度がブロードになってゆくために、ダイレクトラジエターのウーファーと組合わせても違和感がないからです。

エクスポネンシャルホーン、ハイパボリック、トラクトリックス等においては、カットオフ周波数以下ではホーンが全く働かず、ホーンとしての性質が急激に失われてしまいます。
即ち、定指向性ホーンのようにホーンの性質を徐々に失ってゆくという中間領域を持ちません。
このため、中高域を受持つエクスポネンシャルホーン等にダイレクトラジエターのウーファーを組合わせると、「下とつながらない」という現象が発生します。
「下」とはダイレクトラジエターのウーファーのことです。
ホーン+コンプレッションドライバーと、ダイレクトラジエターのウーファーの指向性が大幅に異なるために、高域側と低域側の性質がちぐはぐであり、違和感を生じてしまうのです。
この解決法としては、ウーファーの最低域をカットして音を軽くする、あるいは、低域側もエクスポネンシャルホーンにするという方法があります。
ウーファーの最低域をカットするとクラシックは聴けなくなるため、正攻法で行くなら低音用エクスポネンシャルホーンと組合わせることが必要になります。
ちなみに、定指向性ホーンで低音ホーンを製作すると、これはエクスポネンシャルホーン等とは比較にならないほどの巨大なホーンになってしまうため、実現不可能であると思います。





定指向性ホーンの高域側の限界周波数については、以下のような説明があります。

「パターンコントロールの高域側の限界は、ホーン取付部におけるコンプレッションドライバーのスロート口や、ホーンの回折部であるスロット(ギャップ)の幅によって決定される。
スロート口やスロット寸法が大きくなれば、高域側の限界周波数は低くなってしまう。」

図11-6の"Dependent on driver exit diameter"で示されている周波数です。
定指向性ホーンの高域側のカットオフ周波数と言えます。
水平指向性の高域側の限界周波数を定めるスリットの幅は、2360のような2ウェイ用ホーンの場合、2cm程度です。
垂直指向性の高域側の限界周波数は、スロート口の直径になるので、これはドライバーの選択によって決定されます。
例外的に、ALTEC MR94では、スロート口の垂直方向が狭められています。
これが高域側の限界周波数を高めるためなのか、それともパターンコントロールのためなのかは、謎です。





なお、高域側の限界周波数のすぐ下の周波数帯域において指向性がブロードになる傾向が見られるのですが、この点についての説明はありません。
残念です。

以上の説明から、定指向性ホーンには垂直方向の低域側と高域側、水平方向の低域側と高域側のそれぞれ4つのカットオフ周波数が存在することが理解できたと思います。
ええっと、(14)で説明したように、このカットオフ周波数は、エクスポネンシャルホーン等のカットオフ周波数とは異なる概念なので誤解なきよう。
これが理解できると、定指向性ホーンを自作する場合、スリットの幅と低域側の限界周波数を決めてしまうと、おおむね設計できることが分かると思います。



2013/02/27

JBL 2332 and 2352 (14)

2352を同じような性能をもつ2380Aと開口部の形状を比較してみると、2352の縦方向の寸法は2380Aよりも随分大きいことが分かります。
2352の縦寸法は457mm、2380Aのは279mm。
2352では垂直方向にもフレア(added flare)を設けて開口縁での反射を低減している、と説明することができますが、こうした寸法のちがいは垂直指向性における低域側の限界周波数を引き下げる効果も持っています。


定指向性ホーンのカットオフ周波数の考え方は、音響インピーダンス整合の限界周波数とするエクスポネンシャルホーンの考え方とは大きく異なります。
定指向性ホーンでは、「所定のパターンコントロール角度の維持が可能な限界周波数」という考え方を採るためです。
さらに、この限界周波数は当然のことながら、水平指向性と垂直指向性のそれぞれについて決定されることになります。
ですから、定指向性ホーンの低域側のカットオフ周波数は、「水平が358Hz、垂直が806Hz」というような表示になります。





上の画像はJBLの"Audio Engineering for Sound reinforcement"の139ページです。
ここには、定指向性ホーンにおける最低周波数の計算式が掲載されています。

「f0=1000000/θh

f0: 低域側限界周波数
θ: -6dBパターンコントロール角度
h: ホーン開口寸法」

これはキール氏のJBL 2360の米国特許公報に記載されていた例の計算式、W=K/AFと実質的に同じです。
定数が25000m・degrees・Hertzと記載されていたので、25000とはおかしな定数だなぁと思っていたら、要するにホーンの高さと幅寸法をインチ単位で計算するからこんな定数になっていたのです。
米国特許に記載されているパターンコントロール角度は0.9B、1インチ=0.0254mということで計算するとだいたい似たような値になると。

そして"JBL Audio Engineering for Sound reinforcement"の解説には、こんなことが書いてあります。

「上記の計算式、f0=1000000/θhは、垂直指向性と水平指向性をそれぞれ計算して求めなければならない。JBL 2360の場合、ホーンの水平、垂直の寸法は何れも31インチ。90°の水平指向性を維持できる低域側の周波数は、f0=1000000/θhという上記の式から358Hzとなる。同様に40°の垂直指向性の低域側の周波数は806Hzになる。」

上記説明の文章には低域側の限界周波数について、パターンコントロールの最低カットオフ周波数(the lower cutoff frequency for pattern control)という表現が用いられています。
これからも分かるように、定指向性ホーンのカットオフ周波数の概念は、エクスポネンシャルホーン等のカットオフ周波数(音響インピーダンス整合が可能な限界周波数)とは、全く異なる考え方に基づいています。

エクスポネンシャルホーン、ハイパボリック、トラクトリックス等のホーンの軸上のレスポンスがフラットな状態をして音響インピーダンス整合がとれている、などと説明されても、軸外のパターンコントロールが出鱈目では「整合」の意味がありません。
定指向性ホーンの出現により、音響インピーダンスのマッチングという概念に基づくカットオフ周波数はホーン設計における絶対的な要素ではなくなりました。