V20のレスポンスグラフを見てみると、低域側は業務用の10inchとしては伸びており、一方、高域端が以外に伸びていないことが分かります。
バスレフのダクトは10inchウーファーである2つの2261Hの内側にそれぞれ設けられており、分解図を見てみるとダクト長はあまり長くないように見えます。
バスレフの設計をされた方なら分かると思いますが、これらのことからV20の箱の容積が十分以上であることが伺えます。
高域端が伸びていないのは、ローパスフィルターを設定しているからでしょう。
"Beamwidth"グラフは、これは見事な水平方向の指向性を示しています。
レスポンスグラフは、デジタルプロセッシング(デジタルイコライジング)を施したあとのものなのでフラットなのは当たり前ですが、この水平方向の指向性はそうした処理は不可能です。
Spec Sheetに表示されている"Coverage Pattern (-6dB) Horizontal: 105 degrees nominal (315 Hz-16 kHz)"の通りになっています。
300Hzから低域側の水平指向性が急激に広がっていることから、LFとMFのクロスが300Hz前後であることも分かります。
この優れた水平指向性は、V20の中央に搭載されたウェーブガイド部材とRBI(Radiation Boundary Integrator)によるものでしょう。
このウェーブガイド部材は第4世代(4th generation advanced high frequency waveguide)のものなんだそうです。
改良に改良を重ねたその完成度は非常に高いものとなっているのではないでしょうか。
黄色いホーンシステムではボイスレンジをJBL2392/2490Hと2360A/2446Hに任せ、その低域側を10inchのPeavey 1008-8HEを2発用いたバスレフに受持たせています。
このため、ボイスレンジの低域側を10inchダブルに受持たせているV20には親近感があります。
2392/2490Hの守備範囲は250Hzから1kHz、2360A/2446Hは1kHzから4kHzです。
2オクターブずつということ。
2オクターブは音響的には狭い範囲ですが、音楽的には広帯域と言ってもいいかもしれません。
黄色いホーンシステムでは、この2つの大型ホーンの領域以外の各受持ち帯域は1オクターブになっています。
250Hzの1オクターブ下は125Hz、その1オクターブ下は60Hz、さらにその1オクターブ下は30Hz。
4kHzの1オクターブ上は8kHz、その1オクターブ上は16kHzになるわけです。
実際に8ウェイの帯域分割は以下のような設定になっておりますが、さまざまなクロスを試しているうちにこのような帯域分割にたどり着いたわけです。
なお、ツィーターの領域はツィーターユニットの個性に応じた変則的な帯域分割になっています。
また、111Hzとか4.02kHzなど、異常に細かな設定周波数になっていますが、これはデジタルチャンネルディバイダーのDCX2496の設定できる数値がそうなっているからです。
110Hzを希望しても111Hzになってしまうし、4kHzとしたくても4.02kHzになってしまう、とこういうわけです。
PD.2450 -50Hz
1808-8HPS 50Hz-111Hz
1008-8HE 111Hz-249Hz
2490H 249Hz-897Hz
2446H 897Hz-4.02kHz
2431H 4.02kHz-8.5kHz
DE500 8.5kHz-
2402H-05 10.1kHz-
黄色いホーンシステムの8ウェイ拡張時、Peavey 1008-8HEのバスレフ箱には随分悩みました。
ミッドベースとしてはかなり低域側になるとはいえ、それでもミッドベースであることには変わりはないわけで、そうした帯域に密閉箱ではなくバスレフを選択したことについてです。
密閉箱は十分な容積を稼がないと音が固く薄くなる傾向があります。
例えば、バスレフのダクトを封鎖して密閉箱にする場合、こうした音になりがちです。
Thiele and Small理論を適用して設計されている現代的なユニットとバスレフ箱は、そうした実験に向いていないのです。
当然のことながら、大きな密閉箱に、そうした箱と相性の悪いTSパラメータを持つユニットを入れると、低域のレスポンスがほとんど稼げていない悲惨な特性になってしまいます。
密閉かバスレフかという議論は、Thiele and Small理論が発表される以前の議論だったので、最近ではほとんど語られなくなりました。
こうした話は、もちろん昔のユニットには当てはまりますから、その世界では依然として"あり"です。
そう、これは昔のユニットとそれに適合する巨大な箱の時代を知る者にとっては楽しい話なのです。
一方、現代的なユニットはTS理論を前提に設計されているので、そうした昔の議論をそのまま当てはめても良い結果は得られないようです。
これはダクトを封鎖する実験をしたときに如実に感じました。
結局、現代的なスピーカーユニットを生かすためには、昔の議論に拘泥することなく、TS理論をよく理解した上で設計をしなければならないということです。
Peavey 1008-8HEをどうしても使いたかったのでミッドベース用でもバスレフという変な話になってしまったのですが、今ではこういうのも悪くはないのだなぁ、と思うようになりました。
なお、V20の2261HのTSパラメータは確認していませんが、箱の容積や能率(93dB)から見て、2261Hはミッドベース用のユニットではなく、ウーファー用のユニットとして設計されているように思います。
2261H