ホーンを自作するにあたり何を考えていたのかをまとめてみました。
<システム全体からホーンを考える>
今回のシステムは、ミッドホーンを作ろうという動機からから始まっています。
ミッドホーンと言っても色々ありますが、10インチか12インチのコーン型ユニットをドライバーとするタイプを考えていました。
どうしてかというと野外PA用やシアター用にそうしたタイプが散見されるからです。
野外PA用はホーン長が長いものが多く、製作は可能でも部屋に設置するのは難しそうです。
一方、シアター用システムのJBL5732のミッドホーンは、ホーン長が短い。
というわけで、製作、設置共に容易(そう)なJBLのミッドホーンをお手本にすることにしました。
しかし、JBLミッドホーン模倣計画は、DIY工作技術が絶望的に低いため失敗してしまいました。
メーカー品の模倣がうまくいかないとなると、自分で考えてオリジナルのホーンを作るということになります。
最初はどうしたものかと思いましたが、考え始めるとこれが実に楽しい。
単にホーンの設計というのではなく、スピーカーシステムの全体から各ホーンの役割を考えるようになっていきました。
<ホーンの役割>
家庭用のスピーカーシステムにとって、ホーンの役割とは何か。
それは鮮やかな音を提供することにあると考えています。
この鮮やかな音というのは、具体的にはJBL2360やALTECのMR94のような大型の定指向性ホーンから聴くことができる音です。
JBLには2380(下の画像)という2360より小型のホーンがあります。
同じ4インチダイアフラムのコンプレッションドライバーを接続しても、この2つのホーンの音の差は歴然。
それは2360が大型でカットオフ周波数が低いから?
最初はそんな風に考えていたのですが、1kHz程度でクロスさせても2360の鮮やかな音は消えないのです。
全く不思議です。
「大型」というのは単にカットオフ周波数の高低だけでは説明できないホーンの「本質的な何か」と関係しているのではないか。
黄色いホーンシステムで2360を900Hz以上で使用していますが、この2360は外せないコンポーネントだと思っています。
システムの中核、システムのスターなのです。
黄色いホーンシステムでは、より大型の2392ホーンとJBLの最強コンプレッションドライバーである2390Hがミッドホーンを構成していますが、これはシステムの鮮やかな音の直接の原因となっている訳ではありません。
<ホーンタワー>
黄色いホーンシステムは8ウェイという大規模かつ複雑なシステムです。
このため、定期的に各ユニットの状態を点検しています。
まず、DCX2496のミュート機能を使い、全てのユニットの音を消します。
次に、2360+2446Hのミュートを解除します。
897Hzから4.02kHzまでの音を聴く。
異常音がしないかのチェック。
次に、2392+2490Hのミュートを解除。
今度は249Hzから4.02kHzまでの音を聴きます。
ここでも同じようなチェック。
このときの音、250Hzから4kHzまでの範囲だけで音楽の基本的な部分は成立している。
そして、わずか4オクターブのこの帯域が全てを握っているとも言えます。
その後、2332+2431H、ME15+DE500、2402H-05、と順にミュートを解除し、最終的に5ウェイで構成されているホーンタワー部のみの音を聴きます。
このホーンタワー部の音、250Hz(-48dB/oct)以上の音、太さや厚みというものがありませんが、素晴らしい音で聴きほれてしまいます。
定期点検という名目の戯れは、この音が楽しみでやっているようなものです。
このような点検作業を通じて250Hzから4オクターブというのがシステムの中核になるべきだというコンセプトが生まれました。
しかし、あくまでも2360+2446Hが担当する2オクターブがメインです。
そして、その下の2オクターブを受持つ2392+2490Hの役割は、2360+2446Hの鮮やかな音をダイレクトラジエターのウーファーやミッドローの太く厚みのある音に違和感なく繋げることです。
<高音ホーンの開口サイズ>
再優先で考えたのは、高音ホーンの大きさです。
2360ホーンの大きさが必要だと考えたのです。
2360のサイズは、H795xW795xD815mm。
そこでH870xW870mmのバッフル板に直径800mmの円形ホーンを形成することにしました。
このバッフル板はホーンの一部と考えています。
円形ホーンの場合、理論的には、その円周の長さと同じ長さの波長の周波数が再生可能な最低音となるそうです。
常温の音速を340m/secとすると、直径800mmの円形ホーンは135Hzまで再生できることになります。
また、定指向性ホーンの場合は、円周の長さはホーン設計の要素ではないことはご存知の通り。
下の図(キール氏の論文より)のようなグラフを見れば分かるように、所定の指向性を確保できる周波数が問題になります。
しかし、上記のような理論上の話では2360と2380の両ホーンの音の違いを説明できない。
なのでこれらの理論的な話は、あくまで理論にすぎず、それ以上の意味がないということです。
<高音ホーンの広がり形状>
円形の開口部を持つ定指向性ホーンを作ろう、というのではありません。
ホーンキャラクターがないホーンを作ろうと思っているわけです。
2360とMR94はホーンキャラクターがあります、厳密に言えば。
そしてその原因は、金属製の細く絞った長いスロート部分にあると思っています。
ところで高音ホーンの製作は途中で失敗し、再設計することになります。
その際、長いスロート部を持たないJBLの2353ホーン(下の図)を参考にすることにしました。
また、その回折部にはM2のスロート部の形状を導入することにしました。
2360ホーンのカバー角度は、90°x50°、また、MR94は、90°x40°です。
これらホーンの音の感触を円形ホーンで再現するにはどうしたら良いでしょうか。
円形ホーンの場合、垂直方向と水平方向の指向性は同じになります。
そこで、90°と40°の間ぐらいの広がりを持つ定指向性ホーンの広がり形状を参考にすべきであろうと考えたわけです。
というわけで、60°x40°のカバー角を持つ2353ホーンの60°の水平方向の広がり形状を僅かに広げた形状に決定しました。
下の図、黒線で示す広がり形状が2353ホーンの60°の水平方向の広がり形状です。
回折部周辺の広がり形状は、2353ホーンを参考に決定したわけですが、さらに外側のベル部分は、2360ホーンのラジアルホーン状の曲面を参考にしました。
この曲面は、フェルトの布をやや引っ張っぱることにより形成できます。
フェルトの布にはマジックペンでマーキングをし、引っ張る距離がホーン開口全周にわたり均一になるようにします。
なお、高音ホーンのホーン長は354mm、2353ホーンのホーン長は305mm(1フィート)です。
2353ホーンの回折部以降の広がり形状を生かしつつ、800mmの開口部直径とマッチさせた結果、この354mmという数値になりました。
<回折部の形状>
高音ホーンの回折部の形状は、JBLのM2ホーンの形状を参考にしました。
しかし、厳密に模倣する必要はありません。
何故なら、M2ホーンは900Hzから20kHzまでを担当するホーンだからです。
作ろうとしているホーンは800Hz前後から5kHz程度まで。
どうしてかというと2451Hに5kHz以上を受持たせると映画館の音になってしまうからです。
ところで、黄色いホーンシステムは、JBL社最大の5674とほぼ同規模のスピーカーシステムですが、肝心の帯域分割とホーンの使い方は業務用のそれとは全く異なります。
5674の2392+2490Hは、297Hzから2.5kHzまでをカバーし、2352+2451Hは2.5kHz以上をカバーします。
しかし、2490Hのレスポンスグラフ(下の図)を見ていると2.5kHzクロスというのはかなり無理がある。
さらに、2392ホーンは3kHz以上まで使用可能と、そのパンフレッドには記載されています。
1200人以上もの観客を収容可能な映画館用のシステムなので、2451Hの耐入力をカバーするように2490Hの受持ち帯域を広げたのでしょう。
定指向性ホーンは、4つのカットオフを持っています。
受持ち帯域の高域端の垂直、水平、低域端の垂直、水平についてそれぞれカットオフ周波数を考えて設計されています。
2392ホーンの回折部であるスリット幅は、2360の回折部のスリット幅よりもうんと広い。
これは、2392ホーンが20kHzまで使用するようなホーンではないからです。
スリット幅が狭ければ狭いほどより高い周波数でも回折効果を発揮できますが、ではその場合、低い帯域において問題は無いのか?
回折部を備えた定指向性ホーンの問題点としてウェーブガイドの論者は歪みが生じるということを指摘していました。
漠然とした指摘ではありますが、やはり周波数に対してスリット幅が狭すぎる場合、何らかの歪みが増大する事は想像できます。
ならば、高音ホーンに2451Hを使用し、20kHzではなく5kHz程度まで受持たせる場合、このホーンの高域側のカットオフ周波数に合わせた回折部を作る必要があります。
20kHzまで回折効果を発揮させるならスリット幅は20mm程度に抑えなければならない。
10kHzなら40mm程度ということになり、これは、2451Hのスロート径である38mmと近似します。
M2ホーンは左右のプラグが内側に膨出するような形状(下の図で黄色い線で囲んである部分)になっており、この38mmの中央部の間隙の幅を狭めているように形成されています。
今回の高音ホーンには、この膨出部分をあえて作りませんでした。
なお、今回のシステムの音に十分なポテンシャルが認められない場合には、2451Hではなく2431Hをドライバーに変更するつもりでした。
この3インチのアルミダイアフラムを持つドライバーは大変美しい音を持っています。
これに8kHz程度まで受持たせ、これ以上のマルチウェイ化は見送るつもりでした。
この場合、上記の膨出部を付加する予定でした。
<スナウト部分の自作>
高域側のカットオフ周波数を低く設定するのならば、回折部のプラグはもっと穏やかな形状でも良かったのかもしれません。
この回折部のプラグのエッジは、曲りくねった形状をしています。
この曲りくねったエッジ部で回折現象が生じる訳です。
ところで、この曲りくねったエッジをCAD上で直線状に延ばしてみると、結構な長さになります。
今回の自作ホーンの場合、回折効果を発揮できそうな部分は約36cmにもなります。
プラグの高さが約4cmなので当然といえば当然ですが。
さて、MR94の直線状の回折部のエッジは、どの程度の長さか。
片側23.5cm、両方で47cmになります。
下の画像は、M2ホーンの曲りくねったエッジを示しています。
谷の部分のエッジを黄色、山の部分のエッジを青色で示しました。
回折現象は音圧の高い部分で効率的に生じます。
M2タイプのホーンは、フェーズプラグ直後にプラグがあってそこで回折現象が生じます。
しかし、以前のドライバーはフェーズプラグの直後にはスナウトと呼ばれる音道がありました。
下の画像は、JBL375の断面図です。黄色い線で囲まれている部分がスナウトになります。
ALTECのMR94であれば、フェーズプラグからスナウトと呼ばれる音道を通り、そこから長さが約1フィートもある金属製のスロート部を通過した後、ようやく回折現象が生じることになります。
どちらが効率的かは明らかでしょう。
M2タイプのホーンの回折部は、JBL375やALTEC288などのスナウト付のドライバーのスナウト部分に位置しています。
だからM2タイプのホーンの回折部の自作は、スナウト付ドライバーの内部の音道を自作していことと同じなのです。
0 件のコメント:
コメントを投稿