(87)からの続きです。
<低音ホーン>
ミッドホーンと組合わせる低音部はどのようなタイプが良いのでしょうか。
「ホーンにはホーン」だから低音ホーンが合うというのがホーンマニアの一般的な考え方だと思います。
しかし、最近の業務用システムでは、PA用、映画館用を問わず、ダイレクトラジエターのバスレフタイプが主流であり、Klipschなどの一部のメーカーしか低音ホーンを採用していません。
とは言え、「ホーンにはホーン」というのは理屈に合います。
だからこの選択にはかなり悩みました。
低音ホーンというにはちょっと小さなホーンですが、改造ALTECシステムにショートホーンを備えた828エンクロージャーを使用しています。
下のレスポンスグラフは、A7/MR994A(828、515-8G、MR944A、909-8A)というシステムのものです。
A7/MR994Aのパンフレットには"From 35Hz to 120Hz, the system is bass reflex operated. From 120Hz to the Crossover frequency, it is operated through a straight, exponential flare horn."(35Hzから120Hzまでがバスレフ、120Hzからクロスオーバー周波数(500Hz)まではエクスポネンシャルホーンとして作動する)との記載があります。
レスポンスグラフを見てみると、90Hzあたりと200Hzを越えたあたりに盛り上がりがあります。
90Hzの小さなピークがバスレフ、200Hzを越えたあたりを中心として150Hzから450Hzまでの盛り上がりがショートホーンによるものだと思います。
気になるのは、赤い丸印で示した2つの谷です。
828、どのような音かというと、最低域がさっぱりない軽い低音で、しかも温かみのあるキャラクターなのです。
その精悍な外観とはかけ離れた雰囲気の音。
改造ALTECシステムでは、事前に軽い低音ということは分かっていたので、828を改造し46cmウーファーを組み込みました。
バスレフ領域だった120Hz以下を46cmウーファーに、また400Hz以上をMR94+291-16Kに任せた。
828はショートホーン部分だけを生かしたということになります。
このシステム全体の音は、MR94+291-16Kの繊細で柔らかで艶がある素晴らしい中高音に、828+3156のあたたかみのあるキャラクターがうまく重なって、癒し系というかなごめる音なっています。
この音のためか、2008年11月にこの改造ALTECシステムが鳴り出してから、このシステムは全く発展していません。
JBLのコンプレッションドライバーを中心としたシステムは何故か戦闘的な雰囲気になるのに、改造ALTECシステムは癒し系。
ALTECのシステムで戦闘的にやろうとしてもなんとなく途中で寝っころがって楽しんでしまいます。
音量も控えめで音量をあげて聴くことはほとんどありません。
結局、黄色いホーンシステムはF1のようなレーシングカー、改造ALTECシステムは田舎の風景を楽しみながら流すクラシックなオープンカー、そうした位置づけになりました。
低音ホーンといえば、ヨハネスさんのところで何度か聴かせて頂いたJBL4550が印象に残っています。
下のレスポンスグラフは4550Aのもの。
このグラフ、手書きなんでしょうか?
それはさておき、828の特性をそのまま低域よりに移動させたような特性です。
828の90Hzのバスレフのピークは45Hzに、200Hzを越えたあたりのホーンのピークは110Hzあたりに見られます。
(ヨハネスさんの4550は密閉タイプでしたので45Hzのピークはなかったと思います。)
4550の音は、828のあたたかみのある音と共通するキャラクターを持っています。
但し、全体的に低域側にシフトした特性を持つせいか、あたたかみというより奇妙なモワッとした中低域になっています。
828のレスポンスグラフで見られた2つの谷があるのかは、このグラフからは分かりません。
この2つの谷はウーファーユニットの分割振動によるものか、それともホーンの空間での気柱共鳴のような現象により生じているものかは分からないのですが、4550の音を聴いているとこれは後者が原因だろうと思っています。
4550などの低音ホーンはカッコいいのですが、そのモワッとした中低域と2360のような大型ホーンの鮮やかな音が合いません。
これでは「ホーンにはホーン」というのが理屈だけということになってしまいます。
また、ALTECには4550よりもやや大きい210や211もありますが、ホーン長がさらに長いので状況は悪化しているような気がします。
結局、上記のような理由で低音ホーンは諦めてしまいました。
また、V字型バッフルや床に低音を叩きつけるタイプの低音部もクセがあって家庭用には向きません。
特にV字型バッフルは特性が荒れており、長く付き合うには心理的に無理があります。
<ミッドホーンの役割>
低音部はダイレクトラジエターのバスレフ型にしました。
ミッドホーンは低音部のダイレクトラジエターと高音部のホーン+コンプレッションドライバーの間に挟まれることになります。
このため、ミッドホーンの低域側にはダイレクトラジエターのような感触、そして、高域になるにつれホーン+コンプレッションドライバーのような感触を持たせれば、低音部と高音部を自然な感じでつなげることができます。
下のグラフ図は、JBL5732のダイレクティビティインデックス(無指向音源に比べて正面軸上の音の強さが何デシベル高いかを表します)です。
5732のクロスは250Hzと1.3kHz。
このグラフでは1kHzを中心とした盛り上がりがあり、ミッドホーンがややがんばりすぎのようですが、ほぼ無指向性状態になる100Hzから徐々にインデックスが上昇していきます。
このようなシステムに仕上げれば、低音部と高音部がバラバラに鳴っているような、マルチウェイでは最悪の状態を回避できると思います。
さらに、ミッドホーンがあれば、高音ホーンの低域側の再生能力をあまり気にせずに設計することができます。
800Hzまでミッドホーンに任せることができれば、800mmもの開口径がある高音ホーンならば余裕でしょう。
ホーンの自作は、エクスポネンシャルホーンやハイパボリックホーンの計算から始まりますが、実際にはカットオフ周波数と断面積の話ばかりです。
具体的に「どんなホーンを作りたいのか」という話が出てこない。
そして、この手の計算をさんざんやったことのある方なら理解できると思いますが、不思議なことにホーン長に比べて開口面積が小さくなりがちです。
ミッドホーンによりカットオフ周波数で悩むことなく、上記のようなホーン計算の呪縛から開放されて、市販ホーンの音の経験から思ったような形状の自作高音ホーンに挑戦できるというメリットがあります。
<ミッドホーンの開口サイズ>
ミッドホーンの開口サイズは、高音ホーンの開口サイズと同じにしました。
直径800mmです。
クロス周波数の周辺では、ミッドホーンと高音ホーンの開口サイズが同じため、同じような音の感触になるはずです。
このような設計手法は一般的ではありませんが、それほど特殊なものでもありません。
PA用の2ウェイスピーカーにおいて、低音部のダイレクトラジエターのウーファーの口径と円形の高音ホーンの開口径が同じというデザインをたまに見ます。
ウーファーの音と高音ホーンの音の感触を違和感なくつなげるのが目的です。
こうした手法を流用したというわけです。
この口径800mmというサイズを5732のミッドホーンと比べてみると上の図のようになります。
5732のミッドホーンよりもその開口面積が広いことが分かります。
<ミッドホーンの形状>
ミッドホーンの形状はかなり悩みました。
5732に使用されているミッドホーン(正確にはウェーブガイド)は、364897-001という部品番号が与えられています。
ミッドホーンの設計当時、364897-001だったかは正確には覚えていませんが、このようなJBLのミッドホーンの画像や資料を集めて検討していたことは覚えています。
下の画像や図面は、364897-001のものです。
JBLのミッドホーンのホーン長は、ホーン全体の軸線が傾いているためにはっきりとしませんが、図面から推定すると中央で270mm程ではないかと思います。
高音ホーンと同様に、矩形のホーンの広がり形状を円形ホーンに移しかえることになりますが、JBLのミッドホーンは8インチ2発なのでお手上げです。
そこで水平方向の広がり形状のみを参考にして作図し、ホーン長を351mmにしました。
JBLのミッドホーンの垂直方向の広がり形状はかなり狭い。
ですから、本当はJBLのミッドホーンの水平方向の広がり形状を狭めたような形状の円形ホーンにしなければならないのですが、上述したような気柱共鳴のような現象が恐ろしく、ホーン長をこれ以上長くすることができません。
ホーン長で思い出すのはWE15Aホーンの音です。
1度目はかなり昔のことで音の記憶が無いのですが、2度目はじっくりと聴くことができました。
そのとき、頭の位置を動かすと音量が大きくなったり小さくなったりする現象が生じていることに気付きました。
また、そのような現象を他の15Aホーンでも体験したというお話を聞いたこともあります。
先日、池田圭氏の音の夕映を読んでいると、頭を動かせない旨の記載があり、やっぱりそうだったのかと思いました。
巻かれた音道という形状の他に、やはりホーン長が長すぎるのだと思います。
気柱共鳴のような現象が無数に生じ、共鳴して音が強くなったり、それらが互いに逆相になって音が消えたりしている領域が交互に現れているような気がします。
ミッドホーンのホーン長が長くなることで828のように温かみのあるキャラクターになってしまったり、音圧にむらが出たりするのは困ります。
ちなみに828のショートホーンのホーン長は37.5cm。
結局、ホーン長はJBLのミッドホーンよりも長いものの、大きな開口サイズにより全体のプロポーションはJBLのミッドホーンよりも浅いホーンにしました。
「浅いホーン」という表現方法はなんとも稚拙な感じがしますが、さまざまなホーンを聴いている内に「ほとんどのホーンが深すぎるのではないか?」という疑問を持つようになっていました。
深すぎるホーン、長すぎるホーン長、そうしたホーンが多すぎるような気がします。
開口面積がとんでもなく広く、そしてホーン長が短い、こうしたホーンの方がホーンキャラクターを持ちにくいと思っています。
ホーンの歴史を振り返ってみると、ホーンの役割の変遷(アンプのパワーが稼げなかった時代からの)というよりも、ホーンがどんどん浅くなっていった歴史という理解もできるかもしれません。
ミッドホーンの形状については、円形であることも気になっていました。
円形ホーンにした理由は、手持ちのホーンが全て矩形だから。
それに、今回の布を使用した製作方法の場合、円形の方が作りやすそうだったからです。
何故、円形であることを気にしていたかというと、過去にジャズ喫茶で聴いたYLかゴトーの円形ホーンの音がほんとに酷かったからです。
当時はその原因が分からなかったのですが、それらがエクスポネンシャルホーンであることに原因がある事を定指向性ホーンを使うようになってから知りました。
しかし、本当にエクスポネンシャルホーンに原因があったのだろうかとも思うようになりました。
キール氏の論文に出てくる原初的な定指向性ホーンは円形ホーンです。
だから、円形であることにキール氏が指摘していたような問題は無いはずです。
しかし、矩形のホーンに比べて、あらゆる方向で寸法が同じ、というのは共鳴という観点からは非常に気持ちが悪いです。
あまり外観を醜くしないでこの「あらゆる方向で寸法が同じ」という形状を改善できないだろうかと考えました。
結局、紙管を用いて布を変形させ、水平方向において複合ホーンの形状を持たせることにしました。
こんなことをするカットオフ周波数が上昇するのではないかと危惧していましたが、それは大丈夫でした。
円形ホーンは正方形のバッフルに開口しています。
円形ホーンの縁がやはり円形の場合、そこで均一の反射が生じてしまいます。
それを避けるためにバッフルを設けました。
また、映画館のホーンシステムはたいていバッフルに装着されています。
いつかはバッフルに装着したホーンの音を聴きたいものだと思っていました。
バッフル面は上下部分(緑)と中央部分(青)で面積も形状も異なります。
このためホーン外周での反射も様々な態様になるのではないかと。
なお、上下部分と中央部分の面積の総和は、800mmのホーンひとつ分の開口面積と等しいです。
このため、ホーンタワー前面の三分の一の面積がバッフル板の面積になっています。
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