クロスオーバー周波数を調整する場合、クロスする帯域をフラットにしておく必要があります。ここが乱れているとクロスオーバー周波数の正確な聴き比べが難しくなります。下のグラフはJBL社による2360A+2446Hの特性グラフです。
見事な!カマボコ型です。高域のロールオフ特性も問題ですが、このままウーハーとクロスさせるとクロス付近のレスポンスが低下してしまい中低域が痩せてしまいます。今まではカマボコ状の盛り上がりをイコライザによって5dB程度減衰させていました。盛り上がりの上限を赤色のラインのあたりになるように調整していたということです。しかし、このような設定ではカマボコ型の特性を完全に補正することはできません。
今回は一気に水色のライン(105dBのライン)を基準にしてイコライジングの設定を行ってみました。但し、200Hz~800Hzに渡る急斜面?をイコライジングで補正すると、ウーハーにもそのイコライジングの影響が及んでしまいます。SH-D1000+EQCDは、入力信号がイコライジングされた後、チャンネルデバイダ部により帯域分割されるという構成だからです。
しかし、諦めるのはまだ早いです。SH-D1000+EQCDのチャンネルデバイダ部は、遮断特性のQ値を変更(0.3から7まで)することができるため、これでハイ側のクロス帯域を調整することができます。このグラフ図は、いずれも300Hz(-18dB/oct)での遮断特性を示し、青色ラインがQ値5、緑色ラインがQ値1.2、黄色ラインがQ値0.7、そして赤色ラインがQ値0.3を示しています。なお、上のグラフ図は±10dB、下のグラフ図は±50dBのレンジで表示しています。
2360Aの補正に実際に使用したQ値は、このグラフ図に示した1.2という数値でした。300Hzから500Hzぐらいの範囲をフラットにすることができます。なお、DCX2496は、このようなQ値の変更はできないようですが、チャンネルデバイダ部により分割したそれぞれの帯域についてもイコライジングをすることができるので、同様の補正が可能です。さて、チャンネルデバイダ部のQ値による補正とイコライジング部による補正を合算したものを表示させると以下のようになりました。300Hz(-18dB/oct)での設定です。
猛烈なイコライジングですね。この設定で2360A+2446Hのみを駆動して実際に測定してみると軸上ではほぼフラットになります。定指向性ホーンにイコライジングが必要な理由についてはPEAVEY社のTech NotesのConstant Directivity Horn Equalizationという文献があります。
定指向性ではないホーンの場合、高域になるほど指向性の分布がビーム状になり狭くなってゆきます。軸上の特性がフラットでも、軸上から外れた位置では高域がダラ下がりの特性になってしまいます。逆に、軸上から外れた位置を基準にしてイコライジングを行うと、今度は軸上がハイ上がりの特性になってしまいます。これに対し定指向性ホーンでは、ホーンの軸上から外れた客席にも高音を十分に届けるために全帯域での均一な指向性を確保するように設計します。そして、それに伴う上記のようなカマボコ型の特性はイコライジングによって修正するという方法を採っています。
さて話を戻しましょう。上記のようなイコライジングを施し、最初に300Hz、500Hz、700Hzのクロスを聴き比べてみました。何れも遮断特性は-18dB/octです。これはかなり差があります。300Hzでは最も引き締まった印象、そして700Hzでは中低域が最も分厚い感じになります。この分厚いというのはウーハーの音が全体を支配しているという意味です。700Hzのクロスなんて46cmウーハーとしては高すぎる「はず」ですが、それほど変な音になるわけでもありません。この音が好きだと言う人がいてもおかしくないと思います。
一方、300Hzではウーハーのキャラクターがすっかり消え失せ、これは初めて聴く世界でした。ウーハーの力強さは感じられない一方、音が澄んでいます。2360A+2446Hの音って、こんなに綺麗だったのかと驚きました。しかし、いいことばかりではなく、ウーハーによる音の広がりや厚みが消えてしまうので音場が急に寂しくなってしまいます。
結局、300Hz、400Hz、500HzをSH-D1000の3つのメモリに記憶させ、CDによって使い分けている状態です。400Hzと500Hzはウーハーのキャラクターが味わえるので標準的なオーディオ装置の音が聴けます。そして、300Hzはちょっと変った世界。これも好きです。なお、-24dB/octは今後の課題です。今ひとつ良い結果を得られませんでした。
今回分かったことは、コーン型ウーハーとホーン型のミッドレンジという異なるキャラクターを持つユニット間のクロスを変更すると、全体の音色の傾向だけではなく、音場の深さや広がりまで変ってゆくことが分かりました。しばらくは、良い方向だけを探るのではなく、こうした調整によりどこまで音を変えられるのか色々試してみようと思っています。