尾張・春の陣、二日目の会場はARISAさんの家。4550のバーチカルスタックシステム。初日のごさ丸さんの音に打ちのめされた上に、この巨大スピーカーシステムですから、これはもう生きて帰れないのではないかと不安が募ります。ごさ丸さんに連れて行ってもらったARISAさんの家は大きい上にとても素敵です。特に広々としたお庭が素晴らしい。立派な玄関の前の大きな甕の中には蓮と金魚さん。しかし、趣味の良さが感じられるこの家の中にとてつもない怪物がうずくまっているとは、おそらくお釈迦様でも分かるまい、と思います。
吹き抜けのある大きな空間の部屋に通されると、出ましたぁ!という感じの漆黒の巨人が聳え立っています。4台の4550と中央の4520は、まるで新品のように綺麗な外装。もちろんARISAさんが仕上げたもの。そして、このハンサムなシステム、想像していたより遥かに巨大。これはダメになっちゃうかも、ヘナヘナヘナ…です。腰が抜けるどころか床が抜けてしまうのではないかと思ったのですが、この床の踏み応えが猛烈に硬い。自動車が入ってきても大丈夫とのことでした。右側スピーカーの奥にはアンプ室があり、ここに巨大な放送局用のアナログプレーヤーや総重量400kgを超える業務用アンプがずらり。
煮るなり焼くなり好きにして頂戴!という気持ちのまま、奥様お手製のおいしいオレンジタルトを頂きました。2220の会恒例のお茶会だそうです。ARISAさんに、2220にしましょうよ、とにこやかに話しかけられても返す言葉がありません。どうすればいいの?
ARISAさんの世界は独特です。有名な業務用機材、特に著名なミキサーのフェーダーやラインアンプ部を入手してプリアンプの代わりに使用するというもの。フェーダーと言ってもスライドボリューム単体ではなくラインアンプ基板や入出力トランスが付属しているタイプだそうです。これらは単体の基板ですから電源部が必要となります。この電源部は軍用無線のマルチ電源を改造したもの。軍用ですから使用されている抵抗やコンデンサ等の素子のグレードが高いそうです。ともかく、家庭用オーディオの知識などは全く通用しないディープな世界なのです。
さらに、JBLの業務用モノラルアンプによって構築されているマルチアンプによる駆動系の他、ヤマハの業務用アンプとネットワークを組み合わせた駆動系があり、さらに使用されていない業務用の巨大アンプが積み上げられています。その他、何に使うのか分からないような機材もあり、それら機材が目の前にありながら全容の解明は不可能という状況。巨大な箱に収められているFOSTEXの80cmウーファー、FW800も使われずに放置されています。なんということでしょう…
さて、この4550バーチカルスタックシステムですが、骨太の音に押し捲られるのか、それとも音がすっ飛んでくるのかな、というような予想を全く裏切る「王道の音」なのです。荒れたところなど微塵も無い、堂々としたバランス。どっしりとした量感があるのに引き締まっている。サブウーファーとして使用している中央の4520さえもクセなど感じられません。上段の4550は初期型の密閉箱であり130Aと2220Aの組み合わせ、下段の4550はバスレフ箱で2220Aのダブルウーファーです。ごさ丸さんの解説によると130Aと2220Aは音色に微妙な差があるので、これを組み合わせることによって得られる音にその狙いがあるとのことでした。
持参したソロのエレクトリックベースのCDをかけて頂いた時、低音がフゥッと手に触れたような錯覚に陥りギョッとしました。このときも大音量ではなかったのですが、このCDでこの低音の質感、初めてでした。オーディオ的に言えば低音の分解能に優れているというような話になるのだと思いますが、そんな無機的な表現では到底語れません。あまりの薄気味悪さに思わず手を引っ込めてしまうような、そんな実体感なのです。これは4550や2220Aの性能の高さだけではなく、駆動系を含めたシステム全体のバランスが整っているからだと思うのですが、それにしてもどうしてこんな音が・・・
ヨハネスさんが持ち込まれた機材、高価なCDプレーヤーやDAコンバーター、フェーダーやミキサー、それから軍用電源…、ともかく次から次へとつなぎ換え、聴き比べが行われていきます。そして、それらの印象の差について、ごさ丸さん、ARISAさん、ヨハネスさんがどんどんコメントしてゆく。こちらは、それどころではなくARISAさんの音を覚えこもうと必死です。この音のバランスを持ち帰りたい・・・ 確かに機材によってはアナログレコードの音の傾向とCDの音の傾向の違いのような変り方をしているような。でも、その音の変化にコメントするような次元には到底及ばない。ヨハネスさんやARISAさんが気を使ってくれているのが分かるのですが、経験不足故に落伍…
こうして2日連続の衝撃にクラクラしたまま尾張・春の陣は終了。そして、実に多くのことを学ばせてもらいました。音のエネルギー感、質感あるいは実体感といったものの大切さ、肝に銘じます。それから、ごさ丸さんはシステムの機材をなかなか変更しようとしません。一方、ARISAさんは色々な機材を試している。しかし、両者共に共通するのは探究心。一つの機材の能力をとことん引き出そうとするのか、それとも新しい活路を切り開くのか。この情熱に完璧にやられてしまいました。宿泊させて頂いたごさ丸さん、ARISAさん、ヨハネスさん、貴重な体験をさせて頂き、本当にありがとうございました。一日も早くカタログ男を脱却して、薀蓄のみオーディオとオサラバせねば。
(ARISAさん撮影の画像を使わせていただきました。ありがとうございました。)
システムの概要
スピーカーシステム
JBL 075+ホーンレスの375(その他175)
JBL 2355+375×2
JBL 4550+2220A+130A(上段)
4550+2220A×2
JBL 4520+2205B×2(サブウーファー)
CDプレーヤー PHILIPS LHH500
プリアンプ AMPEX/Quad8
チャンネルデバイダー JBL 5232
JBL 5234
JBL 5235
500Hz、7kHzのクロス、いずれも遮断特性は-12dB/oct
(サブウーファーのクロスは聞き忘れてしまいました。)
パワーアンプ JBL 6006×2(HI)
JBL 6010×2(MID)
JBL 6010×4(LOW、上下の4550に対して1台ずつ)
JBL 6021(SUB)
電源 200V電源